フグ皮引き

  

フグ皮引きと無毒フグ論争

フグの季節は晩春まで。トラフグは2月で終わります。 皆さんはこの冬、もう河豚を楽しまれたでしょうか。

河豚のさばき方は少々変わっておりまして、最後まで処理するにはけっこう手間と時間がかかってしまいます。

なかでも河豚刺し、所謂「てっさ」と、「皮引き」は、かなり特殊な作業と言いますか面倒です。

河豚調理の資格を取る試験でもこの二つの実技で失敗する者が多いのですよ。あとは有毒部分の選別とかね。

刺身は薄作りに慣れて来ましたらそう難しいものではありません。薄くへいで、耳を立てればそれなりに様になります。やはり難易度では「皮引き」でしょうな。

さてまだ見習い域の若い衆が、懸命に河豚の皮を引いております。

フグの皮引き

どうもいけませんねぇこりゃ(笑)

フグの皮引き

河豚皮の引き方
1)粘膜などを丁寧に取り除く。
2)頭側から「とうとう身」をははがす。
3)まな板の角を利用して庖丁峰を使い、たるみのない様にぴったりと皮を張り付ける。
3)向こう側に庖丁の根元で二本ほど切り込みを入れる。
4)左手できっちり保持しつつ庖丁を真皮中層に入れて外引き。
5)棘が残らぬ様に確認しつつ綺麗に引く。
6)よく水にさらしたら霜をふり、布巾に包んで保存。
7)細く刻んで使用する。

画像でやっているのは4~5の部分ですな。

河豚のオロシは先輩板なりおいらなりがやり、皮や尾の処理は若いモンにやらせます。おぼつかない庖丁で内臓を潰したり、身に血が回ったりしてはいけませんからね。

それにこうした事は「数をこなす」しか上達の術がないのです。
これを繰り返すことで試験に臨んでも失敗はしなくるでしょう。
その意味を理解し、頑張って欲しいものです。

フグのさばき方

無毒トラフグ・フグ肝論争・山河豚

さて、皆様は河豚の肝がどれほど旨いかご存知でしょうや。
これは法に触れますし、これで奈落に落ちた河豚調理士がゴマンといますので、おいらの口から言う事はできません。想像で留めておいて下さい。

フグ調理師はどんなに求められても絶対フグ肝を出してはいけませんよ。ただし「今はまだ」です。

なにしろフグの肝や卵巣はテトロドトキシンの固まり。
このテトロドトキシンってのはね、経口で人間を中毒させる猛毒です。青酸カリの850倍、致死量は2~3mg、1グラムで約500人分の致死量っていう邪悪なもの。

ところがこの毒はフグ自体が作り出しているのはなく、食物連鎖によってフグに凝縮されると考えられている「生物濃縮」による毒です。

ここに着目し、毒の無いエサを与えればフグは無毒化する。という仮説を立て、研究をしてその成果を発表したのは長崎大学の先生。

これ受けて2004年の「構造改革特別区域」を利用して【佐賀・嬉野温泉ふぐ肝特区】を構想し申請したのは温泉湯豆腐で知られる佐賀嬉野町。

「ネイチャー」にも発表された長崎大学の研究により、無毒フグの生産は可能だとしての構想です。実際に実験ではテトロドトキシンはまったく検出されていません。

しかし厚労省から待ったがかかりました。
「現時点では無毒化の科学的根拠は認められないし証明できない」

毎年必ず50名前後のフグ毒中毒者が出てもおりますし、この大半が肝を食べてのもの。厚労省の言い分も、あながち頭でっかちの役人の言葉とばかりは言えず、当然な部分もあるのです。

なにしろ日本でフグ毒を含む内蔵(卵巣)の販売が許されている唯一のものに、石川県美川名産ふぐの子糠漬けがありますが、あれが何で無毒化するのか今をもってしてもまったく科学的に不明なのですからね。まだ分からぬ事が多いのは事実なんです。

ですが美味いし安全は確認済み。


ふぐの子糠漬け

この厚労省の反論を検討しつつ、完全な無毒フグの生産に取り組んだのが何故か海の無い「群馬県・前橋」。しかも「電力中央研究所」

中国電力からの依頼だったというこの研究はほぼ完成の域に達しており、毒はまったく無いとの事。養殖技術も非常に優れている様です。

赤城試験センター・循環濾過養魚システム(魚工場)
(養殖技術開発の成功をうけ閉鎖されます)

この『内陸閉鎖式養殖』による「内陸フグ、山フグ」と呼ばれる「工場」生産品、実はもう試験的に出回っております。「無毒フグ」では出せませんので一般の養殖フグと同じ扱いですが。

初期投資が億単位だし、生物を扱うリスクあるので、この技術を受け継ぐ養殖業者が現れず心配されておりましたけども、

海のない群馬でおいしいフグを ベンチャー企業が養殖事業化へ
2009.10.29のニュース

長崎発では最近『ハーブさば』という養殖サバが出ておりますし、色々頑張っておりますなぁ。

好むと好まざるに関わらず、この先の日本の魚は『内陸閉鎖式養殖』みたいに工場で生まれる様になっていくのでしょう。

SFの世界では半世紀以上も前から書き尽くされてはいますものの、そういった世界がもうまじかに迫っているのでしょうかね。どちらにしてもそうなるのは、おいらがもうあの世にいる頃でしょうが(笑)


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