霞焼の研ぎ方 刃境と刃紋

  

間違った包丁の研ぎ方(2)

いつもの包丁噺でもおひとつ。
「マニアック寸止め技」でも披露しながら(笑)、できる限り一般の方にも意味の分かる文章になる様に努力してみましょう。



鍛冶屋と研ぎ屋が丹精込めた出来立ての包丁ってのは、なんとも良い形をしていますなぁ。

これを板前が使い込みますってぇと・・・・

う~ん、まぁマシな方ですか・・

(下は左利き用の柳刃)

さびに注意しなきゃいけないね。

おいおい、おまえさんのこりゃあ、ちょいと可哀想なんじゃ・・・

ってぇか、なんだよコイツは!シノギの筋はどこにあるんでぇ。

もう少しちゃんと手入れして欲しいもんすね~

中には100円ショップで買った包丁を仕事に使う板前もおりやす。

これが時代の流れってやつなんでしょうか・・・・
文句はありません!ありませんとも。ありませんが・・・
おいらは長い長いため息をひとつ「ふぅ~」っと吐くしかない。

そうしましたらね、

板前
「すんません。自分の包丁なんすが、研いでも霞が出ないんですよ」
「どうしたら霞が出るのか教えて下さい」

おいら
「包丁を見せてごらん」

おいら
「こりゃあおまえ、霞だのぬかす以前の問題でしょうよ。どうやって研いだらこんな見事な鶴首になるのか逆に教えてほしいね、あたしゃ。」

前にも記事に載せましたが、コンコルド包丁ですよ。
ここまで来るとある意味見事ですな。だってそんなに使い込んだ包丁ではなく、割と新しいでしょう、これ。なんだってこうなっちまうのか・・・

霞焼包丁とは

「霞」ってのはね、鍛接した包丁の鋼と軟鉄の境に出る波紋です。

鍛接した包丁と言うのは鋼と鉄を貼り合せた普通の和包丁の事。鍛造包丁って言いまして、普通に板前が使ってるのはみんなこれですね。

研ぎの仕上げや鋼の種類によって、霞焼き、本霞焼きなんかに分かれますが、要するに刃の部分だけが鋼で残りは軟鉄。

研ぎやすいし、安価ですので、和包丁はこれが大半です。普通に包丁屋で買うのは殆んどこれになるかと思います。

この包丁は砥ぐと刃先の鋼の部分が鏡の様に光り、逆に軟鉄部分は艶や消し状態になります。それで鋼と鉄の間に霞がかかったような波紋らしき波が出来ます。これが「霞焼き」という名の所以です。

霞焼き包丁

軟鉄と鋼が「張り合わせ」になっているのがよく分かります

「波紋」らしきものと書いたのは、日本刀や本焼包丁みたいに全部が鋼で出来ている刃物に浮く波紋とは違うからです。あれは焼き入れの工程でできまして、所謂「波紋」はそっちの方になり、あれを『刃紋』と呼びます。ですからこちらは「波紋」とは呼ばずに「霞」と言うんですね。

刃紋(刃文):日本刀と同じく焼入れの工程で刃先との温度変化により金属組成の変化が起き、その境目が波状にみえます。工程が違い軟鉄との張り合わせである霞包丁には出ません。

本焼の波紋(刃紋)

鏡面本焼包丁の刃紋を出す

研ぎ方

それで霞を出す研ぎ方なんですが、そんなモノはありません。

これじゃ話が終わってしまい、読んでる方が「なんでぇこのやろう」と怒りますでしょうから、もう少し書きます(笑)

霞を出すには中砥を使います。1000~2000くらいの番ですね。
板前が普通に包丁を砥ぐ場合はたいがいこれを使いますから、これで研いでいれば霞は出るはずです。

ですから特別に霞を出す方法などは書く必要はない・・・
はずなんですががね。
上で紹介しました包丁を御覧いただければ分かるんですが、「普通の研ぎ方すら出来ない」わけですよ。それ以前の問題って訳。

こうやって通常に研げば

霞は現れます。

しかし、この研ぎ方ですと霞は出るものの、「まだら」になってしまう可能性が大きい。砥石に当てた部分をつなげて合わせていけないわけですな。包丁構造をそれほど把握できてない方は難しい研ぎ方かも知れません。

そこでおすすめなのがこの持ち方で研ぐやり方。

要するに部分ではなく全体を砥ぐやり方です。
これですと、霞がキレイに均一に波を打ちます。

#1000あたり中砥ですと、微細な傷が包丁に付きます。細かい掻き傷が出来たのと同じで、このままだとたちまちサビに見舞われる事は確実。

この後、必ず仕上げ砥で滑らかにしましょう。

研ぎの画像では持ち方や押さえ方などを色々変えていますが、その意味するところは「研ぎたい部分の裏に指を当てて押さえる」です。

今自分がどこを研いでいるのかを把握するのが大事で、その為に刃を良く見る事がとても大切になります。研ぎたい部分を見出してそこを砥ぐんです。

霞を出す意味は「かっこいい」からというばかりではなく、切刃にメリハリを付けて【離れ】を良くするという事があります。刃先の粒子は絹で、霞は麻。これにより引っ付きが防止できるのです。そこらも意識して研いでみてください。


Comment