アク引き塩と水塩の作り方

  

あくひき塩

塩梅と言う言葉がありますように、塩の配分が料理の決め手になります。
簡単そうに見えて、本当は奥深く、難しいモンに『魚の塩焼き』がありやすが、その要は何と言っても『塩』ですわ。

板前は『粗塩』を使います。そして『焼き魚』を、極上の一品に仕上げるために、さらに粗塩に手を入れて『アクひき塩』を作ります。

アクひき塩の作り方

天然塩を用意します(おいらは赤穂の粗塩を使います)
1キロの塩に対し卵の殻を三個分。
二つをボールに入れ、杯一杯の水を注ぐ。
それを両手でよく揉みます。
これを板前は「拝み塩」とか言ってます。
よく混ざったらコップ二杯ほどの水を差し、
鍋にうつし煮詰めていきます。
塩のアクがうつった卵の殻が浮いてくる。
それを丁寧にとりのぞく。
ここで一回布巾でこす。
漉したら鍋に戻す。
このとき鍋の底に皿を沈めておく。
後は結晶になるまで煮詰める。
皿に結晶がたまってますんで、そいつを和紙に上げ、
天日にあてて乾燥させるだけですわ。
日射量によって半月から一月、
今の時期なら半月で乾燥します。

水塩

吸い物を「すまし」汁にするために、『水塩』を使いますが、この工程の途中で酒を加えてその『水塩』を作っときます。
荒塩ですましを濁らせない為と、吸い物らしい上品な味にするためその『水塩』を使うんですわ。

コメント欄のPさんよりの質問もそうですが、「記事通りあく引き塩を作ったけどうもうまくいかない」といった主旨の読者の方からの問い合わせが幾度かございました。
少し躊躇しておりましたけども、
「知りたい人は知る権利が有り、求める知識は得ればよい」ですな。
それに己が墓まで持って行く予定の知識や商売上のノウハウは公開できぬ部分もありますが、アク引き塩は先人達が考案したもので、自分で考え出したものでもありません。 そこでお便りを引用しながらもう少し具体的に補足いたします。

F氏よりのお便り
 一キロの塩に卵の殻を三個いれて、少量の水を加えてから殻が細かくなるまで手ですり合わせしました その中に水を適量加え、鍋で沸騰させて様子を見ましたが殻が浮いていないのです 飽和状態ですから浮いて来ても良いと期待していましたが殻を砕き過ぎたか、洗ってからいれてしまった事が原因かも知れません。殻の内側の薄い膜等取り除きましたのでその事も心配です  殻は殆ど手作業で取り除き、ふきんで濾してから、更に水を追加して煮詰めました お皿に結晶状態の塩が出来ましたのでそれを現在乾燥して
います 濾した食塩水は勿体無いので現在保存して有ります これが水塩ですか。又お皿に結晶で付着していない塩はこれも勿体無いので乾燥中です

Fさんは殆どご自分で失敗の原因を気づいていらっしゃる様ですが、少し加えます。
>殻が細かくなるまで手ですり合わせしました
細かくしすぎてはいけません。{よく揉む}とは殻を粉砕する事ではなく、「まんべんなく塩になじませる」事だとご理解して下さい。

>殻の内側の薄い膜等取り除きました
卵の薄膜には強力な吸着作用がありますのでそのままに。盃一杯程度の水で揉んで煮詰めていきますと、黒く変色した殻が浮いてくるはずです。そのカスは一度には取れませんのですが、根気よくなおかつ丁寧にすくい取ってください。
キレイにカスが取れた時点で布漉しします。
鍋底に小皿などを並べ入れ、さらに煮詰めていきますと、鍋肌のそこかしこに塩の結晶が付きますが、丁寧に擦り落とします。そのままだと焦げてしまいます。
(結晶が出来始めたタイミングで漉してしまうのが「水塩」になります。1割ていどの生酒(燗にしていない酒)を加えて瓶などで保存しておきます) 水分が完全に飛べば出来上がりです。和紙に広げ、夏場の日射量でおよそ半月ほど天日で干しましょう。
冬場ならその倍です。
天日乾燥が無理な場合は弱火で煎る方法もありますが日持ちはしません。
すぐにべた付いた塩になります。ただしその都度煎れば問題はないです。 指の間からサラサラとこぼれ、いささかも手にひっついたりしないほどであれば上出来ですよ。

Pさんから
>天日干しの終わったアク引き塩ですが、板さんたちは擂鉢などで細かくさらさらにしておいたりするのかなぁ?

塩の旨味(ミネラル)は結晶の外殻にあります。従って細かくし過ぎると辛いだけの塩になってしまいます。粒が荒い場合は塩振りの時に手のひらで優しく(強くしてはいけない)揉み解しながら振ればよいですよ。べたつけば煎ります。

保存は自分の場合は下の壷を使いますが、使用量の少ないご家庭では密閉容器がおすすめです。