ブリコとハタハタ
ブリコとは魚の卵です。
「ブリコ」を漢字にすると鰤子、鰤っ子。
鰤はアジ科の「ハマチ・ブリ」のブリのことですんで、その鰤の卵かと言いますと、違うんですね。ブリの卵ではありません。
ブリコとは秋田地方で使用される名称。
東北地方の日本海側で、寒い冬に沿岸でよく見かける魚の卵を指しています。通常2ミリほどの卵が互いにくっついて塊になり海藻に付着、それが強風・波浪で海岸などに打ち上げられたりします。漂着してるんですな。それがブリコです。
ブリコは秋田名物の魚【ハタハタ】の卵です。
なぜ「ブリの子」?
なぜハタハタの子なのに「ブリの子」なのか?
一番有名でそれらしい説は、関ヶ原合戦の後秋田に移封してきた佐竹氏によるものとする逸話。佐竹公が秋田の藩主になって以降、ハタハタがよく獲れるようになったとして、ハタハタを【サタケウオ】とも呼んだらしいですね。
ところが藩主の佐竹義宣はハタハタの乱獲を心配し、資源を保護するためにハタハタの卵を採取するのを禁じたという。でも冬になればそこら中の海岸に打ち上げられる「天の恵み」ですな、地元民にとっては。子供らは口に入れて遊んだりもするわけです。で、殿様を誤魔化すために、「ハタハタの子ではなくブリの卵である」と言い逃れるようになった。
面白い話ではあるが、少々無理ってもんがありますんで「お話」でしょうかね。
塩漬けなどにしたハタハタの卵は非常に弾力があって硬い。
それを口に入れるとプチプチした食感でももって「ブリブリ」はじける。このへんからのついた名称だと考えるのが普通でしょう。
異説にはこんなのもあります。
卵同士が強い粘着力で互いにひっついて離れない。
だから「離れない子」、つまり【不離子】(ぶりこ)と呼ばれる。
そんなブリコも色んな段階があり呼び名が変化したらしい。
古い書にはこうあります
・鰰(はたはた)の腹子を絞り出したものは【ぞろり子】
・塊を数珠状に繋いだものは【繋雷子】(つなぎぶりこ)
・ぞろり子を折敷に盛り、潮水を打って固めたものが、
【方神魚子】(おしきぶりこ)
まあ色々と使われていたんですなぁ、ブリコも。
しかし、親の体内にある未成熟卵(画像のブリコがそう)は美味かろうと思いますが、産み落とされ成熟し、卵塊と化した受精卵のブリコは非常に固く、食べて美味しいものではなく、それこそ「子供の玩具」としての意味しかないと思います。
ハタハタ
ハタハタは漢字で【鰰】と書きます。もしくは別名であるカミナリウオの字【雷魚】と表記してハタハタと読ませる場合もあります。お隣の新潟では「しまあじ」と呼んだりもします。
ハタハタは水温15度以上では生きられない魚ですので、普段は水深200メートル以上の深海にいます。ようやく水温が13度くらいになる真冬の秋田県沿岸に接近。目的は産卵。
寒い冬の悪天候を選んで寄ってきます。
つまりカミナリがなり海が荒れている天候を選ぶ。
なので「雷魚」と呼ばれるんですな。
1980年代には急激に漁獲量が減少し、絶滅が心配されました。乱獲ですな。佐竹義宣公の危惧が現実化してしまったという事でしょう。しかし90年半ばの全面禁漁が功を奏したのか、近年漁獲量が回復してます。
秋田伝統の魚醤『しょっつる』(塩汁・塩魚汁)は、ハタハタの塩漬けを発酵させたもの。これを隠し味とした『しょっつる鍋』に入れて食べるのよし、これも秋田伝統の『いずし』にするのもよし。
味噌田楽や普通の塩焼きでも美味しい。
陶板焼きや煮つけもよい。
ハタハタにはウロコがなく、小骨も少ない。身離れもいいので、見かけの姿の印象と違いとても食べやすい魚です。