鰹節はカビの力を借りて材木みたいに硬くなります。
「世界一硬い食品」は伊達じゃない。
大工が使う鉋を使って削るしかありません。
この鉋に箱を付けたのが「鰹節削り器」で、「かつ箱」「鰹鉋」とも呼びます。
このかつ箱で一番肝心なのはもちろん「刃」でして、箱は鉋がぶれないような頑丈作りであればそれでいい。プロはこの箱の材質にタモ材を好みますし、桐製はいかにも上等そう。だがそんなモンはどうだってよろしい(ペラペラの材質は駄目)。箱はたんなる台であり、無くてもいいくらいですので。肝心の刃がナマクラではまったく意味がありません。
鉋刃も青紙はよく切れる
鉋刃もやはり裏押しが大事ですなぁ。
切れる鉋の刃を薄く出し(0・1ミリ)、削り始めます。
鰹節の繊維に従って(順目で)削ります。
ところが枯れ節はどうしても削り始めが「粉」になります。
これを嫌ってレンジでチンしたり、蒸したり、煮たり、水に長時間浸けてふやかしたり、などという事が書かれてる料理本があります。鰹節一本を全部料理にしようってんなら分かりますが、一本の鰹節は普通の家庭使いなら1ケ月持ちます。「加熱しちゃいけません」し、水に濡らしてもいけません。
本枯はそれ自体を料理にするのではなく、香りと旨みを引き出す「だし」にするのですから、本体に何かするのは本末転倒ってもんです。
それじゃ枯れ節を使う意味はまったくない。
香りとエキスは飛び去り、酸化が早くなる。
つまり「荒節」を削るやり方と同じことになります。
(荒節を削った「花かつお」「削り節」なるものは、水に長時間つけますし、蒸煮して削りやすくして作ってます。もちろんスピードアップが目的)
なんのために専用の鉋まであるかって事。
柔くするなら「ピーラー」で削ればそれでよい。
ただし、それはもう「かつお節」ではありませんが。
かわいた布巾でカビを拭き取るだけでいい。
のですが、実はカビも落とす必要もありません。
料亭のやり方を何でも真似すりゃいいってもんじゃありませんわな。
削るときは頭の方から削りますが、ここはカーブしていて直線ではありません。どうしたってデコボコしてます。鉋の構造からして平面でなきゃス~ってな具合にいかんのは分かりましょう。なので平面になるまでの最初の部分は粉になっても仕方ありません。
粉になってしまう部分をうまく削れないか。
平面になるまで鉋以外のもので削ってみてはどうか?
「鉋の構造?」
では、ピーラーみたいな小さな鉋、っていうか鉋の丈夫さ強さを持ったピーラーがあれば解決すんじゃねぇか?
そう思いましたが、道具屋に「できませんね」と冷たくあしらわれました。
どの家業も職人全滅状態の世の中ぁ嫌なもんですなあ。ったく。
まあ堅い材木を紙みたいに削る道具は鉋くらいでしょうがね。
鉋を使いましょう。ただしチッコイ奴です。
ホームセンターに行けばどこにだってあります。
真ん中のが普通の削り器の鉋です。
これがちっこい鉋。
これは限界まで乾燥させた本枯二年。
(長ければよいというものではなく、二年を越えればおそらく風化?する)
さっさと「面」を出して花立ちを良くしたいがそうはいきません。
この面さえ出ればあとはうまい具合にす~っと花が立つ。
少し「しらた」が入ってるが、こりゃ仕方ないでしょう。
本枯本節はまるで黒檀ですんで、削り始めは往生します。
いくらすっても粉、粉、粉。
そこで鉋のチッコイので面ならしします。
と、まあ横着なことを書きましたが真似しちゃいけません(~_~;
何故なら「かつ箱」の方がずっと簡単だからです。
面ならしは非常に難しいし、コツが必要です。
素直に削り器でやってくださいね。
→かつお節の削り方
かつお節でだしをとると一言でいいますが、最初に大事なことを知っておかなきゃいけません。パックに入っている『花かつお』、あれはかつお節とは言えません。かつおの燻製を削ったものです。カビ付けの工程へ進んでない物を鰹節と呼ぶのは間違い。
かつお節の作り方
三枚におろして「節」にしたカツオを釜で2時間近く籠煮する。
釜から取り出し骨を抜く。この段階が「生利節(生節)」。
燻製に似た手法で燻して乾燥させる。これを数回。
この焙乾したものが「荒節」で、これが「花かつお」の原料。
さらに削り洗って乾燥させ、カツオブシカビを付ける。
カビを落とす。
また干して乾燥させカビを付ける。をこれを繰り返す。
この「干してカビを付ける」工程にて数ヶ月かかります。
これを4~6回以上行ったものが『本枯節』で、
これが本当の「かつお節」なのです。
簡単に述べましたが、この間に複雑な作業が沢山あり、煮る作業一つでもミスするとモノになりません。それなりの技が必要な仕事です。
生利節や荒節、それにカビを付ける前の裸節も「カツオを加工したもの」であり、広義にはかつお節の範疇でそれなりに美味しい食品。
柔らかい生利節は惣菜に、やや香りの出た荒節は濃厚な出しに向きますし、「味」を優先させる人はこちらを好む場合もある。大阪では普通にこれで出しをとる。しかしいわゆる「かつお節の出汁」とはまったく別の物です。
「花かつお」をかつお節だと思って出汁を作っている方は一度「本枯れ節」を味わってみるべきです。
なぜ「カビ」でそれほどまでに旨み・香りが違うのか。
カビはかつお節内部の水分を蒸発させ乾燥を早めます。
カビは脂肪分を分解するリパーゼという酵素を分泌、
これにより酸化を防ぎ、脂肪が減少。
だし汁も濁らなくなる。
カビにより有害菌を防ぎ腐敗しない。
カビ独自のタンパク質分解酵素で香りを高める。
つまりね、「枯れ」によって雑味(脂や魚臭{主に水分})を抜き、旨みを凝縮させているわけです。雑味が消えて芳醇な香りが際立つ。
枯れと鰹節の旨味・香りは分離できないのです。ガチガチに乾燥が進んだ本枯ほど旨いし香りが高い。
したがって吸水や蒸し煮などの加熱はもっての他なんですよ。それは全部食べる場合のやり方で、削って出しをとる方法とは言えんし、やれば本枯の香りが間違いなく減ります。鰹節は棒鱈や身欠けニシンではありません。
※高級料亭などでは鰹節の血合いを除いて削ります。
なので蒸したりするのですが、これの真似をする必要はまったくありません。
こんな素晴らしいカビ付けですが、「手間」が大変。
そこで誕生したのが「花かつお」です。
花かつおには悪しき歴史がありましてね、「ニセモン」の代名詞みたいな物なんですよ。かつお以外の魚、つまり「雑節」の混入です。
ひどい時代には「サンマだけ入った花かつお」が売られたりしました。
圧して伸ばしたサンマのスライスを鰹削り節として販売。
バカヤロウですな。消費者をなめるにも程がある。
現在においても「花かつお」および「削り節」は荒節が原料です。
中には本枯節を削ったものですと書いてるのもあるが、
これはJASのせいですな。品質表示基準で「二番カビ以上は枯節と表示しても良い」と日本農林規格さん。
何でしょうかなこの「二番カビ」ってのは。
(三番カビまで付けた物が枯節、四番以上が本枯れ節)
※四番カビとはカビ付けカビ払いを5回繰り返したもの。
一回のカビ付けに約二週間、本枯まで四ヶ月。
例えば本枯本節二年物だと叩き合わせるとカキンと済んだ音がするが二番はゴツゴツした音。この音は品質の差。
しかし鰹節は二年ものが限度、それ以上だと乾燥し過ぎて逆に品質が劣化し、風味も薄れてしまう。二年物でも、上品ではあるが使う量を増やさないと薄い。
ムロに二週間で灰色のカビになり、これが二番。
これは枯れ節に入らんでしょう。「灰色」だけ。まったくグレーなこって (笑)
農業と同じく「手抜きしなさい」でしょうかね。
しかも二年くらい前に大手メーカーが二番もやってないかつおパックを「枯節」と表示、JASから叱られて自主回収になってる。
「ホンモノ指向」と言いつつ数十年、何をやってるんでしょうかねぇ。
残りの数ヶ月が「コストにあわない」んでしょうが、そのコストが胡散臭いんですよ。本枯を作っている方々は今も昔もたいして儲けてはいない。それを考えれば勝手な企業論理である事はみえみえ。
※現在の表示ルールは、
鰹節(枯節・本枯節)を削ったものが『かつおぶし削りぶし』
荒節を削ったものが『かつお削りぶし』
と、なっている。
笑止というか何というか。(笑)
鰹節を見たこともなく、カビ付きの本枯を腐ってると気味悪がって捨てちまう人々が40代50代になろうっていう時代にね、こんな言葉の微妙な違いに何の意味があるってんだか。違いなど分ける訳がない。
消費者庁というのがあるそうですが、この事を知ってるのかどうか。
企業の念願は「ヒット商品」。
しかし市場は飽和し、人々は多様化。
そんな今の時代にヒットは困難を極める。
あるとすれば「手間」を見直すでしょうね。
そこに活路を見出す先見の明が欲しいものです。
多様化したからこそ「本物」を求める人々の声が重い。
いい加減、それに気付いてもいいのではないか。
鰹節屋も漁師も難儀な時代です。
簡単な仕事ではないうえ後継者がいない。
伊豆節、土佐節、薩摩節。
なんとか持ち堪えて欲しいものです。
「時代が違う」
「もう無理なんだよ」
この話題になるとよくそう言われます。
けどね、一つ断言しておきましょう。
鰹節(本枯節)が消えたら日本人の「魂」は終わりです。
完全に芯を失った国民になるでしょう。
と、まぁ小うるせェ事を書いちまいましたけども、
そう気にすることたぁありませんや(^^)
ただね、一度くらいは食べてみて下さいな。
せっかく日本で生まれたんだし。
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おはようございます。
鰹節のカンナの刃、難しいですよね。
ちょうど2日前にお父ちゃんが研いでくれました。
それから、刃の出具合?
あの調整が難しくって、削っては、
木槌片手にトントンと・・・・
透けるほど薄い鰹節を目指して(笑)
調整が上手くでき、綺麗に削れるととっても嬉しいです。
シュッシュッと削っていると、息子が横でつまみ食いしています~
確かに、たしかに、一番出汁で作ったお吸い物は違います!!
料亭のような具材でなくとも、しみじみ旨いなぁ~と。
ひとつ質問よろしいでしょうか?
家は背節の方ばかり注文していますが、
魯山人氏によると亀節が良いというのを読んだのですが、
どのように違うものでしょうか?
今日の記事で教えていただいた
「芽吹き菜」のデトックス効果について
文中リンクいただきましたが、
よろしかったでしょうか?
差しさわりがあれば、おっしゃってください
よろしくお願いいたします。
Posted by ほっこり at 2011年03月11日 08:59
こんにちは、ほっこりさん。
魯山人に限らず明治の料理関係者が必ず言うのはね、
出汁にするのは
一 亀節の背の赤い部分
二 本節の背の赤身
共に血合いを避ける
煮炊き出汁、あるいはそのまま食べるには
一 本節の雌節
二 亀節の雌節
その理由は簡単なことで、「脂」です。
脂分が少ない方が出汁として上等って考え方です。
和食は精進から発達してきた料理です。
侘と寂にその真髄があるのです。
「枯れ節」という素晴らしいネーミングも偶然の産物ではないですな。
亀節は小型の鰹で造るもの。
当然ながら「脂」が少ないのですよ。
昔の日本人はね、
アブラのどぎつい物を「品がない」と考えてました。
その最たる証拠が「マグロの大トロを捨てていた」事実。
彼らにとって極上なのは締りのある赤身なのです。
今現在、
油ギトギトのカラスカレイのエンガワや、
養殖鮪のぎとぎとアブラのトロが大人気。
時代はこうも変わるものか。と、魯山人は天国で嘆いてるでしょう。
(もう一つの理由は食中毒の長い歴史。古来よりの経験から、あぶらのきつい魚介は傷みやすく「あたる」原因になりやすいと分かっていました。なので干物や燻製、そして鰹節が考案されたのです。これは酸化、つまり不飽和脂肪酸が変質して過酸化脂質になるのを防止する工夫です)
現在、高級和食店では本節・雄節の血合いをはねて薄削りにしたものを吸い物・椀物用の一番だしに使用します。血合いの渋味や濁りを嫌うからです。
なので一般にも雄節が上等というイメージが広がっており、血合いの多い亀節は敬遠され、一歩後退してる感じです。
ですがね、これは料亭のやり方をむやみに家庭へ持ち込む間違った考えと言えます。
先に述べた通り、亀節は「極上の吸出し」もとれるし、煮炊き出汁もとれるし、食べる用途にも使えるお得で便利な鰹節です。
亀の一番の特徴は「大きくて持ちやすい」で、これは「削りやすさ」につながります。
とても削りやすいんですよ。刃へ接する面積が大きいですからね。
背の方は吸い物や奴・サラダのトッピングに、腹側は味噌汁や煮炊きにと削り分けるるのも面白いです。
リンクは歓迎ですよ^^
ありがとうございます。
そのかわり
「茎立ち菜丼」と、
豆腐・油揚げ・わかめの味噌汁と、
白菜漬け、食わして下さい(笑)
Posted by 魚山人 at 2011年03月11日 12:45
いつも拝見しております。
魚のおろし方、だしの取り方などとても参考になります。
なかなかこういうものを教わる機会が無いのでとてもありがたいです。
パック出汁を使用していて、いくらモノを変えても「これは違う」と思い
このブログを見て自分で出汁を取ってみたら旨味が全然違うことに気づきました。
しかしそこで使っていたのは枯節ではなく花かつお。
さらにおいしく香り高い出汁が取れるのならと思い、近々本枯れで出汁を取ってみたく思います。
やれ手間を省くだの時間短縮だの言われる世の中ですけれども、手間暇かけた料理はちゃんとおいしくなるし、裏切らない。
まだまだ20代の若造ですけれども、美味いものに真剣に、これからも精進していきます!
Posted by 歳納 at 2015年02月05日 22:04
鰹節や昆布から取る出汁の精緻さは、筆舌に尽くしがたいレベルのものです。
こういうものが廃れて、逆に【軽佻浮薄】がもて囃される今の日本は、どう考えても何かがオカシイと感じます。
口先だけで「おもてなし」なんて愚にもつかぬ馬鹿なことを言っているヒマがありゃね、こういう真の宝を後世に残す努力してほしいと願うばかりですよ。
Posted by 魚山人 at 2015年02月06日 01:59