和食煮物の基本と約束事

  

煮物の決まり事

和食の煮物は大きく分けて煮汁を残さない【煮っころがし】や【煮しめ】、煮汁を含ませる【含め煮】、煮汁を使わない【炒め煮】があります。


水加減 火加減
煮付け
魚等を短時間で煮る
ひたひた 強火
含め煮
沢山の汁で味を浸透させる
たっぷり 弱火
煮浸し
薄味で煮てそのまま味を含める
かぶるくらい 中火
煮込み たっぷり 弱火
煮染め
濃い味で長時間
かぶるくらい 中火

ひたひた→材料の頭が少し出ている水加減
かぶるくらい→材料の頭の上に水がくる加減
たっぷり→材料の頭より2~3センチ上の水加減

煮汁をからめる「煮付け」をメインにする煮物は、汁を沢山使って煮る事はしません。そうすると材料の旨味が汁に逃げてしまうからです。材料の上部が出ている程度の少ない汁で短時間に煮上げる必要があります。

その方法で煮物を崩さず味を浸透させるため、「丸底浅鍋」や「落し蓋」があり、煮物向きの火加減と水加減があります。

(1)鍋の選択

一般に煮物の量は鍋の6~7割(2/3)程度が限界です。
鍋に対して材料が多すぎますと均一に火が入らず芯が残ったムラのある煮物になりますし、反対に量が少なすぎる(鍋が大きすぎる)と鍋の中で踊って煮崩れしますし煮汁も無駄に蒸発してしまいますので、これもやはり煮ムラが出来てしまいます。基本的に材料が鍋底にきちりと収まり適当な隙間ができる分量が理想です。

煮汁の多い含め煮や下ゆで等には深い鍋。
魚の煮付けや煮っころがしには浅鍋が適します。

家族の人数(煮物の分量)に合った鍋をそろえておくとよいでしょう。

和食用の鍋類

(2)材料を入れる順序

普通は水(あるいは出汁又は調味液)から煮ていきます。
(青菜類は水から煮てはいけない)
煮魚は生臭さを出さない為に沸騰した煮汁(水・水と酒半々・調味液など)に入れます。

複数の材料を煮る場合

①ニンジンやサツマイモなど煮えづらいもの
②じゃがいもや大根、肉類
③青い葉物類
の順番で煮ていきます。

※つまり「地下で育つものは水から」「地上で育つものはお湯から」
地上で育つ葉もの野菜は火が通りやすく、急激に加熱することで鮮やかな色もでます。(鍋にフタをすると味が悪くなり色もでません)

地下で育つ根菜類は湯から始めると、芯が残って表面が崩れます。
ムラなく火を入れるには水からの方がベスト。さらにゆるやかな加熱により酵素が活性化し、甘みが増すのです。

魚や水気の多い野菜などは水分が出ますので、ヒタヒタで一気に煮てしまった方が美味しくなります。固めの野菜などは汁を多くして含めた方がいいです。

煮しめは醤油味が勝り(もしくは出汁の風味)、材料の持味はあまり残りません。保存食や副菜などに適した煮方です。

肉など出汁のでる素材は煮込みにして味を引き出し、柔らかく煮たほうがよいでしょう。

火加減、水加減は必ずしも上の通りではありませんが、概ねこの様になります。最初は強火で沸かし、その後の火加減になります。

煮汁を残さない煮物

「煮っころがし」が代表です。
「ひたひたよりも少なめ」の汁でほっこりした煮物に。

芋やかぼちゃなどを鍋底に一段に並べ(カボチャは皮を下に)、だしを材料の2/3ほどの高さに張り、一気に煮上げて煮汁を残しません。焦げやすいので火加減が大事になってきます。「クツクツ」の火加減を厳守。

※クツクツとはコトコトとも表現しますが、追いたてる様なボコボコ・グツグツでは材料が踊り崩れてしまいます。なので「火力」を調整すればいいのです。これが「火加減」の意味です。同じ100度でも火力の調整でボコボコとコトコトは違ってくるんです。


煮しめ

含め煮

①「ひたひた」の汁で煮汁を材料に浸透させ、煮汁が少しだけある 

②「かぶるくらい」で煮て煮汁を残し、しっとり感を持たせる

③「たっぷり」の汁で泳がせるように煮含める。

※②と③は火を止めた後そのまま冷ましながら煮汁に浸けておく『鍋どめ』をすることで、さらにしっとりと内部まで味を含みます。

  

炒め煮/炒り煮/揚げ煮

きんぴらが代表。一番手早く仕上がる煮物です。
材料を薄く切って火通りをよくし、少量の油で炒めて水分を飛ばしたあと味を付けます。調味料だけで煮切ってしまうやりかたですね。

これは「揚げ煮」

(3)おとしぶた

鍋よりも一回り小さな落し蓋は、少ない汁で煮上げる煮物には必需品です。材料全体に煮汁を回し、均等に熱を回し味を浸透させます。

また、煮崩れ防止にもなりますし、水分が無駄に蒸発するのを防ぎます。
適度な重しにもなる木のふたが良いです。必ず濡らしてから使用しましょう。

木蓋がなくても「アルミ箔」や「クッキングペーパー」で代用できます。非常に柔らかい材料(カボチャなど)はむしろ木蓋を避けてこのいずれかを使ったほうがいいです。アルミ箔は円形にし、数ヶ所に穴を開けておきましょう。

鍋のふた

和食は含め煮を始めほとんどの場合鍋にふたをしません。
蓋をすれは早く沸騰し、その状態を保てますから、少ない汁や弱い火力でも沸騰状態を保てる利点がありますので、「下ごしらえ」には便利です。蒸らす必要のある米炊きにも蓋は欠かせません。

しかし煮物の場合蓋をしてしまうと熱が強くなりすぎて、表面だけ味が染みそこから崩れてしまいがちで中が生煮えになりやすい。それに材料のアクが回り仕上がりも汚い。そこで和食の煮物では「おとしぶた」が活躍するのです。お粥でも蓋はしない方がうまく仕上がります。

※煮魚やカボチャの煮物などは崩れるので途中で動かす事ができません。
なので、お玉やスプーンで【煮汁を回しかける】必要があります。落し蓋をしていてもこれは同様です。時々煮汁をすくって上からかけてやります。これにより全体に味を回せます。

(4)煮崩れさせない

野菜や魚を煮物にすると、「煮崩れ」してしまう事があります。
その理由は、「柔らかい材料を、強く加熱し、鍋で材料が動く」からです。そこに気をつければ煮崩れはしないという事になります。

まず材料。 野菜は皮の境目あたりが加熱で柔らかくなります。 そこからグズグズになって崩れてしまうんですね。

【皮を思い切り厚く剥いてしまう】か【角を取ってしまう】

このどちらかの方法で対処できます。
(もしくは皮を剥かない)

これはサトイモやカブを煮る時に使う剥き方です。


野菜の剥き方・切り方

皮を思いっきりぶ厚く剥いていますね。角を出すためです。
この角の面が、鍋の底でうまい具合に並び、しかも適度なすきまが出来て煮汁が対流するポイントなんですよ。きっちり整頓して暴れないので煮ても崩れないのです。

この反対に角を取って丸くしてしまうのが【面取り】です。


南瓜の面取り

鋭角な角をスーっと切り取り、四隅を丸くしています。

この二種の切り方は、「野菜の性質」、「煮物の目的」、「大きさ」によって使い分けます。たとえばデンプン質のイモ類は加熱に非常にもろいので、大きく皮を切り取り、すぐに水にさらしてアクを抜きつつ肉を締める必要があります。そうしないとデンプン質はボロボロになります。

ニンジンやダイコンは繊維が比較的強いので、剥き方に神経を使う事なく煮込めますが、煮る時間が長くなるので角を取っておきます。そうしますと強い火で短時間に煮上げても崩れないですし。

カボチャは肉が柔らかく、皮が固いという形状です。カボチャを煮る場合、固い皮を鍋の底につけて並べてから煮ると崩れる心配がありません。カボチャの場合ナベ返しができませんのでこうします。

最初に書いたように「火が強すぎる」のが煮崩れの最大の原因。
「グラグラ煮立てる」のではなく「クツクツと煮る」のが煮物のポイントです。煮物は火加減&水加減なのです。

(5)味付け/調味

昔から和食の味付けは「さしすせそ」の順番だといわれます。

さ(砂糖)
砂糖は味がしみるまでに時間がかかりますので
一煮立ちし材料が柔らかくなったら一番最初に加えます。

さ(酒)
酒は和食の隠し味。まろやかな風味を料理に与えます。
砂糖代わりに使ったり、砂糖の次に加える。
もしくはミリンをこの段階で加えてもいでしょう。

し(塩)
塩は材料の水分を引きだします。早く加えると硬くなってしまいますから、砂糖の甘味が回った後に入れて味を引き締めます。

す(酢)
酒同様材料のクセを取ってくれ、あっさりとした仕上がりになります。

せ(しょう油)
和食を和食味にする重要な調味料。
香りが飛びやすいので、仕上げの段階で加えます。
出来れば数回に分けて入れる。

そ(みそ)
やはりしょう油同様に仕上げの段階で加えます。

塩と砂糖は材料を締める働きがあり、味の浸透は遅いです。早めに使うのは間違いありませんが、塩は味全体を鋭くしますので、使うポイントは仕上げだったりマチマチです。

砂糖はできれば控えて代用を考えましょう。普通は酒とミリンで十分なはずです。使いすぎると味覚を鈍くします。

しょう油とミソは「香り」が主体なので終わり頃入れるのが普通です。

酒は材料に深みを出し柔らかくし、ミリンは材料を硬くしてツヤを出す効果があります。また、酒もミリンも素材の臭みを抜く作用があります。

酢は煮物ではあまり使いませんが、生臭い臭いを飛ばし、芯まで柔らかくする作用があるので青魚などを煮る時に利用します。

なぜ「さ・し・す・せ・そ」なのか?

答えは「砂糖と塩の ”拡散作用” です」

煮物の調味料は拡散現象によって材料に味がしみ込みます。拡散速度は概ね分子量が小さい方が速くなります。

砂糖の分子量は塩の5倍以上。従って食塩の方が砂糖よりずっと早く材料にしみ込みます。しかも塩には材料を凝固させる(引き締める)作用もあります。

ですので最初に塩を使うと素早く材料に浸透し引き締めてしまう。その結果、あとから砂糖を加えても味がしみ込み難くなります。(砂糖と塩を同時に加えても先に塩が吸収されるので結果は同じ)

まず砂糖をゆっくりしみ込ませ、材料が柔らかになったタイミングで塩を少しずつ加えるのが煮物味付けのコツです。

「す・せ・そ」の方は味付けと言うより「香り付け」に近く、香りが飛ばないように加熱の最終段階で加えます。味付けに関しては「さ・し」が重要で、「す・せ・そ」はそれほど気にしなくてもよいという事です。

(6)煮物を盛るコツ

基本中の基本にして絶対なのは「平坦に盛らない」ということ。
つまりペッシャンコにしない様に盛ります。

常に「小高く」なるように盛ってください。
季節の香味野菜などを「天盛り」するのも忘れずに。

和食の盛り付け

(7)魚の煮物

魚の煮物ですが、魚は全般的に身が壊れやすく、他の肉のようにはいきません。特に白身の魚は加熱にもろいです。切り身でもそうですが、頭付きの姿煮などは大変ですね。

油断するとこうなります。

下ごしらえの段階でこれを防ぐ方法は多くありませんが、
「皮目に庖丁を入れておく」は効果がありますよ。

斜めに3本くらい切り目を入れておけばよいでしょう。
もしくは×印に大きく切り込んでおきます。
そうすれば皮が見苦しくはげてしまうのを防げます。

※薄塩をしておく・霜降りをする・針打ちする・酢を塗っておく・など皮弾けを防ぐ方法は色々ありますが、やはり切り込みが一番効果があります。

※姿煮の場合魚の下に竹の皮などを敷いて置くと失敗しません。

参考動画 タイの煮付け(姿煮) 作り方

魚を煮るコツ

・さばいた魚に薄塩をして余分な水分と臭みを抜いておく

・必ず霜降りする
新鮮な魚は特に沸騰湯だと崩れやすい。なので鍋を使い「おとしぶた」を魚に乗せ、その上から80度くらいの湯をゆっくり回しかけ、冷ます水もふたの上からかけてゆっくりと汚れを落とす。

・煮汁は最初に作っておいたほうが失敗しない
(ただし我々プロは水と酒から煮るケースが多い)
水と酒が 5~6
(出汁を使う場合は酒水で薄めて使う。出汁が勝りがちなので使わぬ場合が多い)
しょう油とミリンが 1
好みで砂糖を少し
(白身は薄めで青魚は濃いめ)
この割合で煮汁を作り、沸騰させておく。
煮汁の量はひたひたより少なめ(魚の8割くらい)
煮汁から煮るケースもあり、旨味は逃げないが、臭みが出る可能性があるので一般的には沸騰させてから入れた方がよい。

・砂糖なしで酒とミリンのみの方が煮崩れ防止になる

・青魚は梅干や酢を少量加えて煮るとよい

・煮る時間は白身魚はサッと早め(汁を少し多めにし薄味)
青魚は少し長め(味を濃くし、からめるように煮あげる)

・みそ煮の場合味噌は後半に加える