すし酢について

  

江戸前鮨の蓋然性

「マグロの赤身の寿司だけ食いたい」
コックやってる友達のセリフです。

いえね、べつに手前で鮨屋行く時は、こんなガキみたい我儘を言ったりはしないと思います。自分も料理人ですから、鮨職人に向かってそんな事は言わない。

おいらにそう言うのは、古馴染みに対する甘えみたいなのがあるんでしょうが、多分それだけではありません。



おいらは個々の鮨はそれぞれ別々の料理だと考えており、いちいち気にして、「鮨をバランス良く食べるにはどうすれば?」なんて方には、「自分が食べたいのを好きなだけ食べればいいんですよ。小難しく考える必要はない。鮨はバランス栄養食品じゃありません 笑」

そういう質ですんで、友達も怒られる心配などせず気楽にそうねだるわけでしょうね。

「じゃこれ食べて」
「お子様寿司一丁あがり! 笑」

喜んで食おうとするコック。

「あ ちょっと待った。撮らして」

口に入れかけた握りを慌てて戻すコック。

「しょうがねぇ~なぁ。盛り付けが乱れちゃったよ。まぁいいか」

そうこうしながらある考えが頭をよぎりました。
「ところでさぁ、いつもおまえの我儘きいてるよな、おいら」
「そのうえ、このマグロ鮨はプレゼントだ、もってきゃがれ!この泥棒野郎」

「だからね、アレを少し頂戴。 ね、アレ」
口先は「懇願」調でも、目つきは有無を言わさぬ脅迫眼。

そうして正等に?入手した【モデナ産トラディツィオナーレ】

『千鳥酢』をメインに、『赤酢』と醤油を紅差し、それに幾許かこのバルサミコを加えて変わりポン酢を作ることにしました。

赤酢は米酢のツンとした酸の棘がなく、だからこそ江戸前鮨が広がったという酢なんですが、酒粕なので臭気が残る。一方千鳥酢は醤油の淡口に相当する、つまり酢として薄いが、しかしそれなりに酸味はある。だから薄口醤油同様関西で好まれる酢。

千鳥酢

「aceto balsamico tradizionale/アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ」とは、乱暴に言えばイタリアの赤酢。ブドウ酢ですが。熟成された本物は、変な表現ですけど複雑な「甘い酸味」がある。深い。モデナ産はDOP指定の長熟。
※DOP〈Denominazione di Origine Protetta/デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ フランスのAOCと似たもの〉

話が逸れますが、赤酢と言えば最近『飯切』を使わぬ鮨屋が増えつつあると聞きます。なにやら例によって機械的なモンを使うらしき按配。さすがに都内で江戸前の看板を背負う気概のある店はそんな事は絶対にしませんけども、職人を奴隷のように扱う店なんぞ、人件費削減をうたい文句にして手間喰う仕事は全部機械化する。

おりしもこの不景気を背景にじわじわと「はんだい」すら消えて行ってるらしいんですよ。余分な酢をうちわで飛ばし、飯切の木肌に適度に水分を吸われて冷めるからシャリになる。金属盥でグルグルしたシャリが食えるかってんだトンチキ。

蒸篭や天麩羅鍋

そして飯切も

寝かせて置くのは可哀想。
まして、冥土に送るのは気の毒至極。
「道具は道具、機械はキカイ」
前者は職人が使い、後者はシロウトが使うものです。

さて、このポン酢。何をする為かといいますと。
こいつを握って食べる時に使うためです。


河豚白子

表面をバーナーで炙る。
砂糖シャリは気持悪いので、赤酢シャリ。
海苔は邪魔なので、パティシエールの丸抜き小を使う。
ドロリとした「魚山人ポン酢」を点々とオブジェすれば完成。

出来上がりは、残念ですが見せられません。
店で出すかも知れないからです。

お味ですが、久々のヒットって感じです。

何故そんなチャラチャラした鮨を作るのか。
そもそも魚山人らしくない。
そんなもん伝統的江戸前寿司とはまったく違う。

そうかも知れませんな。

けもどおいらは作ります。
その理由は自由にご想像なさって下さい。
できれば脳味噌を揉んで柔らかくしながら。

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