寿司職人の掌

  

職人の掌

お気に入りの漢字というものが幾つかございます。
【掌】もその中のひとつ。



「てのひら」という意味ですが、「たなごころ」と読みます。
この「たなごころ」の音が良いですねぇ、なんともいえないよい響きです。

古代日本で酒は神事と深いつながりがあった様なんですけども、日本書紀にこんなのがあります。[高橋の邑の人活日(いけひ)を以て大神のさかびとす]、神酒を造る人を【掌酒】(さかびと )と呼んでいたって事です。

掌には物事を司るって意味があるんですな。掌握です。悟空は筋斗雲で世界の果てから果てまで移動したが、仏の掌から出れなかった。大きいという事なんですね。

簡単に言えば「手首から先」のことでして、腕と区別して「手」と呼ばれる部分です。

仏掌

この世界に入ってすぐに親方から言われた言葉が記憶に残っております。
曰く「そんな貧乏指してたんじゃ鮨は握れねぇ」

昔から指と指の間に「すきま」がありますと幸せを溢す、また蓄財もできないと云われますが、そこから「貧乏指」ってきたんでしょう。指が細かったのでそう言われた訳です。

まぁ長年稼業を続けていましたらだんだんに太くなってきたと言いましょうか、丸みがついてきたんですが、経験上確かに「仏掌」の奴は握りに関して利点があると感じております。絶対とはいえませんが、職人に向いた手ですよ。

例えばウチの番手の手なんですが、こんなミットみたいな手をいたしております。

こいつは左利きですがこれもミット。

写真の様に庖丁の研ぎはヘタクソですが、腕はまぁまぁです。

そいで近所のいきつけの鮨屋に行きまして、
「ちょっとおまえさんの手を撮らして」
「え~。モデル料高いですよ」
「うるせぇ、熊みたいな手しやがって。どら手を出せ」

やはりこれもミット。ドラエモンの手ですな。

なにしろおいらの手も決して小さい方ではありませんが、比較すると子供の手に見えますから、大きさが分かろうってもんです。

まったく最近の若い野郎どもは恵まれております。とはいえ、細い指よりは良い鮨を作る「可能性が多少ある」ってくらいですけどね。何事にも絶対ってのはありませんので。

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