包丁研ぎ・中級【裏押し 反り】
包丁研ぎにある程度慣れてきた頃、ある事に気付く方がおられるでしょう。
「裏を研ぐと切れ味が良くなる」
「表をシコシコやってるより早く刃がつく」
その理由は切刃全面よりも「裏押し」の面積が小さいからです。なので、労力に比して手早く刃がついた気になるのですよ。
和包丁の裏側ってのは凹状態になっております。
水平ではなくカーブしてるって訳です。
光が直線ではなく中央に向けて歪曲してますね。
赤線でそれを強調しています。
これは鍛冶屋がつけた凹で、「裏スキ」です。
「比」とも言います。「裏比」ですな。
ここが水平ですと切ったものが張り付いてしまいます。摩擦抵抗を減らし、切った食材が張り付かぬ為の凹みですね。同時に裏側を研がなくてすむ、あるいは必要最低限度に研げばよい様にしているのです。
包丁裏の断面構造です。
星マーク☆のところを残して緩やかな凹になってます。
この☆が平面を残した「裏押し」です。
裏を研ぐときはこの部分を研いでいる訳です。
通常は「片刃和包丁は裏を研がなくてもよい」と言われてますし、そう説明を受けて最初は研がないでしょう。「表を研いだら裏に出るバリ・カエリを落とすだけでいい。表を20研いだら裏は1くらい」そんな感じで教わるはずですからね。これは正解ですし、おいらもそう書いております。
→包丁の研ぎ方
ところが、ある時バリを取る際に裏を研ぎこんで刃が鋭くなることに気付く。
「なんだこりゃ。簡単に切れるようになったぞ」ってな感じ。
それは確かにそうなんで、裏を研ぐことになります。
赤丸の部分、裏押しを狙って研ぎます。
というか水平にすれば自然に裏押しに当たる訳ですけど。
砥石に歪みがなければね。
裏の押し方
元、中、先と持ち方と角度を変えた方がいいですね。
角度はつけませんが、角度を付けると切れが増します。
それでクセになって角度を深くする人もおりますが、真似してはいけません。丸っ刃にするのがオチです。
詳しくはこの記事→包丁に刃をつける
しかし、簡単に刃がつき楽だからと、裏押しばかりしてればどうなるか。
凹が無くなってきます。
さらに進行するとベタ(直)になります。
せっかく鍛冶屋がつけてくれた裏比がゼロに。
裏が水平になると和包丁としての機能はほぼ終わりです。
100円ショップの包丁と同じようなものになる。従って包丁を大切に維持したい方は裏押しを控えたほうがいいのです。
しかし裏押しが過ぎると包丁の腰が無くなるのは事実です。(弱くなります)
何事も過剰を押さえ「元」を大切にしたいもの。産みの親である鍛冶屋がつけた裏スキだということを忘れぬようにしましょう。
包丁「反り」の研ぎ方
これはおいらが使ってる包丁のソリ。
上が特殊鋼、下が本焼。
ソリの大切さは何度か書いております。
→切っ先三寸
しかしながら、「ソリの形」の理想型というものはありません。
強いて挙げれば日本刀ですが、あれは目的も手入れも使用頻度も、まるで包丁とは違う物です。包丁は日常的に使い、そして研ぐもの。要するに調理人の望む形にしてもよいものだということ。
自分が使いやすいようにすればいいのです。
「鶴首」にさえしなければ、なんとか使えますからね。
→鶴首包丁
元々「和牛刀」だったものをこんなソリにする人もいるし
直刃が好きでベタ研ぎを続ける人もいる。
これは定評のある「有次」をベタにし、しのぎ筋を上に上げたもの。
こういう方法もあり、悪くはない。
(柳・出刃の切刃は元々ゆるやかな曲面をしており、薄刃などの様な直刃ではない。なので新しいうちはベタに研ぐのは大変。だが外殻が数回剥けた頃から面白い様にベタ研ぎが出来る)
ベタを続けた包丁の未来予想図です。
切刃だけのベタだったつもりが、結局刃先まで直になりソリは完全に消えてます。
ではソリを維持したまま研ぎ続けるとどうなるか。
これは33センチの包丁が20センチ半ばになったもの。
およそ15年くらいでしょうかね。ソリを保っています。
最終形態で10センチ台。まだソリがあります。
上の二本はともに霞です。
本焼やステンは違う結果になりますが基本的には同じ。
ソリの研ぎ方
ソリを維持する研ぎ方を書いておきましょう。
この包丁の白い光の部分。
このあたりからが包丁のソリになります。
(この包丁は本焼ですのでカーブは浅め)
カーブの起点を確認
まずは自分がどこからカーブさせたいのか確認する必要があります。
平たい台に切刃の元を密着させ押さえてみます。
およそ45度の角度にしますと最適なカーブ起点が分かるはずです。そこを指で押えこの左指の位置を記憶しておきましょう。
先ず切っ先を研ぐ
そして、研ぐ時は最初に切っ先から研ぎます。
指が覚えたカーブの起点が浮かぶくらいの気持ちで押さえますと、効果がはっきりと現れます。
弧を描くように移動
下部を研ぐ特は右手を引き、包丁を心持ち立てるような角度にしていきます。下の写真ですと左手人差し指がソリの起点であり、研ぎ角度の分かれ目になるわけです。
上の画像は自分独特の押さえ方です。
この画像からも分かると思いますが、微妙な研ぎで一番重要な部分は左手の指先です。ここに「砥石を感じ」ないと包丁はうまく研げません。
逆に言うと、ここをコントロールすれば好きなように研げるのです。
指先の力加減により思う通りの刃がつくんですよ。
裏押し、切っ先、そして切刃、これらの研ぎは炭素鋼包丁の「霞」「本霞」「本焼」、それに「ステンレス」にほぼ共通。
同時に、ステンにも様々な特徴を持った特殊鋼があり、さらにそれらを合わせて造る包丁もあります。これらはすべて特徴が異なりますので、その特徴にあった研ぎ方が求められます。