和食の煮物と煮付け
和食の煮物には以下の様なものがあります。
飴煮、甘露煮、照り煮、艶煮、煮しめ、煮付け、荒煮、白煮、味噌煮、柔らか煮、さくら煮、沢煮、芝煮、酢煮、冶部煮、おろし煮、旨煮、じか煮、揚げ煮、炒め煮、筑前煮、焼き煮、けんちん煮、鍬煮、薩摩煮、ごった煮
所謂「煮付け」とは「煮しめ」の部類になります。
煮〆とは煮汁がなくなるまで煮る煮物を指していますが、煮付けも程度の差はあれその範疇であるという事ですね。
板前の煮物の作り方
板前は、家庭でやるような「生から煮」を、絶対しません。
例えば五目煮。
五目煮といえば、人参、蓮根、里芋なんぞの根菜類がつきものですが、これらはみな火の通りがそれぞれ違います。これを合わせて煮る時に、ご家庭ではまず別々にこしらえるって事をやりません。これじゃ芋に火が通ったのに、大根には芯があるって事になります。そこで火の通るまで加熱したりするわけですが、当然形が崩れたり、味にムラが出来ちゃう。
※各材料を別々に下ゆでしておいてから、一緒に炊き合わせる※
『シンまでうま味がしみこんでいるのに、形は崩れていない板前の煮物』は、こうやって拵えます。
イモ類、人参、などは半ゆでで止めます。型崩れを防ぐ為ですね。蓮根やフキはアク抜きの手順を踏んで下さい。大根、蕪、筍などは米のとぎ汁で完全に火を通してかまいません。牛蒡は柔らかくなるまで茹でてもいいです。青菜類は、鮮やかな緑がキモですんで、「色だし」して下さい。一気に塩ゆでして手早く冷水で熱を取ればいいです。シャッキっとした歯ごたえを残すためにサッと湯から取りだすのがポイントです。その後熱を加えないように。最後の仕上げで料理に添えます。
各材料の下煮が終わったら、合わせて味を含ませるんですが、この段階でグラグラ沸騰させたらすべてブチ壊しです。全部別々に下ごしらえするのは、面倒かもしれませんがね、ここで仕上がりに差が出るという訳です。とは言え、ご家庭で別鍋仕立ては大変です。火の入り難い物から煮て、「茹でこぼし」や「アクとり」でカバーしましょう。
煮物のコツは火加減・水加減です。
特に大事なのは火加減。「ぐつぐつ」ではなく「くつくつ」の加減をつかみましょう。
魚の煮付け
ご家庭で魚を煮るときに、はたと迷う事がありませんか?
魚を冷たい水から煮るか、煮汁が沸いた状態の中に入れるのか。
板前の答えはこうです。
・白身の魚は沸いてから
・青魚は最初から鍋に入れて
これは、白身魚は水分が少なく、身質が硬いので身崩れの心配があまりないし、青魚は水分が多く、身が柔いので身崩れしやすいからです。身質で味のりにも差があります。
しかし要はその魚を「柔らかくしたい」のか「硬く仕上げたい」のか、だと思うんですよ。肉類の加熱調理で大事な点は、最初に強く加熱すると、身が縮む(タンパク質が凝固する)んですけど、それはつまり外側が固まり、内部の旨味を流失させない、旨味を閉じ込めるって事なんです。
逆に最初から弱火ですと、旨味が水に溶け出してしまうという訳です。ケースバイケースで目的に合わせやり方を変えて対処します。
煮魚を美味しく仕上げるコツですが、落とし蓋と酒と醤油をさすタイミングで決まります。落し蓋 煮魚はあまり動かせません、崩れるからです。そこで大事なのがおとしぶたなんです、無ければキッチン・ペーパーやアルミホイルで代用しましょう。むらなく煮汁を浸透させるには絶対必要です。
酒
材料を引き締めてやる調味料に酢、味醂、砂糖、醤油がありますが、酒は材料を柔らかくし、かつ旨味を引き出すという、なくてはならない重要なモノです。ともかく遠慮しないで大量に使うと美味さが増します。
醤油
分量の醤油を一回で煮汁に入れる事はしません。煮ぐあいを見ながら、落し蓋のへりからチョロチョロと、三回くらいに分けて醤油をさしながら味を決めていきます。ですが、これは板前の中でも味にこだわる板前のみがやる手法ですから、必ずしも真似する事はありません。
最初に味を決めた煮汁を作り、それで魚を煮るのが一般的なようですから、それでも支障はないでしょう。落とし蓋さえすれば問題はないでしょう。材料がかぶるくらいのヒタヒタに汁を張り、その汁を適度に煮つめて仕上げます。
旨い煮付けの要点
重要な要素
■霜降り
臭みを取り、煮魚の仕上がりを決める大事な料理前の一手間。
湯に通し、水に取り洗います。魚の形を壊したくない場合は沸騰湯にさし水をして、湯温を下げます。そこに水を注意深く差して丁寧に血やウロコを洗い流すとよいでしょう。
■落とし蓋
魚を煮る場合絶対必要になります。
鍋よりも一回り小さいサイズを用意しましょう。
煮物料理ごとのポイント
煮付け
酒と水を沸騰させます。
砂糖、味醂、醤油で調味します。出汁は使いません。(酒の割りを増やすと旨味が増します。私は酒のみで仕上げる事も多々)そこに魚を入れ、落し蓋。砂糖は、白身の魚は使わない方が良いかも知れませんがお好みで(私は使いません)背の青い魚は増して、濃く仕上げます。
醤油は数回に分けて差すのがコツです。煮汁の全体量は「ちょうど魚が隠れるくらい」か「ひたひた」。かぶる程度と8割程度で調整します。再び沸騰したら中火にします。(火加減は落とし蓋がたえず踊っている状態)あとは出来るだけ短時間で仕上げます。
あら煮も基本的に同じですが、酒と水の煮汁が半分くらいになってから調味します。鮭やブリのアラは脂が強いので、霜降りの前に塩をふって余分な水分と臭みを取っておきます。
基本の調味料に、生姜(切り、絞り汁)やたまり醤油を加えるとよいでしょう。(風味程度にします。生姜を効かせるのはイワシなどの青魚を【生姜煮】にする場合です。甘露煮や煮付けに生姜を効かせると生姜煮になります)煮汁が三割くらいになったら完成です。
甘露煮
素焼き、素揚げにした小魚を飴炊きにします。
さらに酢で煮たり酒をふって蒸してやると、いっそう柔らかくなります。
上の下ごしらえで水分を抜いた魚を丁寧に並べ(頭を外にした円形がよい)なべ底に竹の皮や笹などを敷き(私は鰹節削りを使います)ますと焦付き防止になりますし、まんべんなく煮汁が行き渡ります。
並べた魚に酒と水をかけて紙蓋をし、火を入れます。沸騰したら火を弱くして砂糖、水飴を加えます。そのまま甘味を浸透させるためしばらく煮つめます。煮汁が半分以下になったら醤油とたまりを加え、数分後に火からおろします。そのまま翌日まで放置します。
翌日また同じ事を繰り返します。この繰り返し回数が多いほど柔らかに姿良く仕上がります。煮詰まってきたら酒と水を追い足しましょう。黒豆煮と同じで、忍耐が仕上がりを決めます。
辛煮
先の二つのやり方で、煮汁の無くなるまで煮詰めるのが辛煮です。
焦げつかない様に鍋底に敷物をし、魚を重ねない様に並べます。霜降りのかわりに、酢煮(酢水でしばらく煮たたてその煮汁は捨てる)します。こうする事で骨まで柔らかな煮物が出来ます。
煮浸し
上であげた手順で、魚が泳ぐくらいに煮汁をたっぷり使うのが煮浸しです。煮付け、甘露煮は7割くらいに煮汁を詰めますが、煮浸しは5割、約半量残して仕上げます。これも一晩寝かせると味が浸透します。(ただし煮付けは「煮えばな」つまり作りたてが一番美味しいです)
味噌煮
煮付けの手順で、醤油を味噌に置き換えたのがみそ煮です。代表的な素材がサバ。赤味噌は煮汁で液状に溶いてから加えましょう。(私は砂糖を使用しませんので、味醂で味噌を溶きます)
柔らか煮
貝やタコを柔らかく煮る方法です。
1時間から3時間ほど弱い火で気長に煮るのが基本です。貝もタコも下ごしらえに塩を使わない方がよいです。(固くなる要素です)臭みとりには湯くぐり(数秒間)して洗うとよいでしょう。調味の基本は同じですが、出汁を加えます。貝は汁ごと加熱、タコは沸いてから入れます。
竹串が抵抗無く刺せる柔らかさになったら、材料だけ取り出し、汁だけを煮詰めます。三割量ほどになったら火を止めて冷めたら(タコの場合。貝は汁ごとさまします)材料を汁に戻し、浸けておきます。あたため直す場合、沸騰させてはいけません。