クリ
毬栗
クリを含め、種子を食用にするナッツ類は、澱粉が主体のものと脂肪分が主となる二種に分かれます。クルミやマツノミなどが後者であり、いわゆる「テーブルナッツ」として扱われます。ラッカセイも油脂原料をとっている事から分かりますように、この脂肪分を主とするグループになります。
一方でトチ、ギンナン、シイ、ナラなどの実、そして「栗」は、前者のでん粉を主体とする種になります。ナッツは煮焼きして食用にするのが一般的ですが、でん粉を主体にするものは穀物の代用として使えます。
古代の人々にとって穀物は貴重なもの。ゆえに代用品と言うよりも日常的な主食としての役割をクリは担っていました。米作農家が米をまったく食べれずに二級穀の粟やヒエを食べていた構図は世界共通です。主穀は戦略物資であり通貨であり、それ以上のものだった訳です。まぁ王侯貴族の食い物です。日本では縄文時代から近代まで、南ヨーロッパあたりでは小麦粉の代用品としてこれもかなり古くからクリは人々の貴重な主食(代用)だったのです。
西洋でもクリは大切な食べ物だったという話が出たついでに書いておきますと、栗といえば【マロン(Marron)】だと思い込んでおられる人が多い様ですけども、マロンとは『セイヨウトチノキ/Aesculushippocastanum』(仏:マロニエ:marronnier)を指す言葉であり、栗ではありません。
これがなぜ栗を指す言葉として使われる様になったかと言えば、フランス菓子「マロングラッセ」が原因だとされます。 マロングラッセは元々マロニエの実(marronnier)を砂糖漬けにしたものですが、いつの頃からかマロニエの代用にクリを使用するようになったのです。それでいつの間にかクリをマロンと呼ぶようになったとか。
さて、クリは日本では縁起物とされております。
栗ご飯、甘露煮、渋皮煮、羊羹、きんとん、これらの料理は不思議な事にハレを感じさせる雰囲気を持っております。
何故クリは縁起物なのでしょうか?
その答えは栗の品種を見ていく事で分かります。
クリの品種
栗は北半球の温暖な地域に約12種が分布しています。 欧州にはヨーロッパグリ、北米にはアメリカグリなど、中国にはシナグリなど。ヨーロッパグリはマロングラッセで、シナグリは天津甘栗でお馴染。
ここでは和栗を紹介します。
ニホングリ/JapaneseChestnut
ニホングリの分布は北海道の一部と九州まで。朝鮮半島でも栽培。
渋皮離れが悪いものの、粒が大きく食用に適する為世界的に有名です。栗は秋の味覚ではありますが、種類によって旬を迎える時期が微妙に違います。すなわち早生種から晩生種。
早生種
最も早い栗は盆明けくらいから採れる早生の【丹沢】。他に【国見】や【玉造】
これらの早生種は9月上旬くらいまでが旬で、つまりもう終わっております。早生種の栗は加工食品に向いています。
中生種
9月中旬から10月上旬にかけて旬、つまり今現在旬の真っ盛りなのが中生種の栗。まずは【筑波】ですが、この栗は{くり農林3号}とも言いまして、ニホングリを代表する品種です。たくさん収穫できる事から栽培量もダントツです。ただし樹勢が弱くなると小粒になり生産量も落ちます。実は粉質。
中生種で【筑波】と並んで日本を代表する栗が【銀寄】
この栗は非常に見た目が良く品があります。実も粉質で甘みが強く品質が優れている。料理に使う時、自然とこの栗を我々は選んでしまいます。反り返った形はいかにも栗らしいと言うか美しい。マロングラッセにもこの銀寄を使う事が多い様です。
この栗の原産地は大阪。天明の大飢饉があった1780年代に救荒食として大ブレイクしたのが「銀寄」の名の由来だと云います。すなわち銀貨を吸い寄せるほど売れたのでしょう。
・銀寄(ぎんよせ)・丹波栗
上の銀寄は丹波産で、所謂「丹波栗」です。しかし「丹波栗」という品種はありません。粒の大きさで名の高い京都丹波地方で生産されるクリを丹波栗と呼んでいるのです。ちなみにクリの生産量は茨城、熊本、愛媛、栃木、岐阜などが勝っています。
中生種には他に【紫峰】などがあります。
晩生種
10月に入ってから旬を迎える種で【岸根】(がんね)などがあります。しかしやはり栗らしさは中生種に尽きると思います。
利平栗
岐阜の大桑村で誕生したニホングリとチュウゴクグリの一代雑種で、大粒、しかもニホングリの弱点である渋皮離れの悪さを克服した栗が【利平】です。大粒で少し角ばった形をしてますが、味はおそらく和栗の中で一番かも知れません。 だから値段も安くはありません。
さて、これらのニホングリには「親」がおります。
つまり日本に自生する「原生種」のクリ。
この原生栗をササグリとかヤマグリと呼びます。
が、正確にはこれを【シバグリ】(芝栗/柴栗)と言います。
先の和栗達はこのシバグリを改良したもので、江戸時代より前は存在しなかったものです。このシバグリこそ縄文時代から食用にされてきたクリなのです。
蒸して粉にしたものが「平栗子」(ひらぐり)
乾燥させて搗いて殻と渋皮を除去した「搗栗」(かちぐり)
戦国時代、この「カチグリ」が「勝ち」につながるとして武士達はこれを縁起物としました。これが後に正月の縁起物に転じたとされています。
栗の料理
栗の料理に関しては、ゴチャゴチャと書く気になれません。なんでもアリの世の中です。好きな様に料って下さい。栗が「でん粉主体」である事さえ押えればそう酷い料理にはなりません。
イガグリを手にした方は分かると思いますが、外殻が付いている状態ではとても食べれるシロモノには見えません。痛くて手に持つ事すら出来ゃしない。
でもね、それがありのままの栗の姿です。
なんとかその姿を料理にうつしたい。
それが和食という料理を作る板前の性というもの。
そこで色々な手段を考えます。
これはその一例になります。
外殻とイガは食べられる食材に代え、実の部分は裏漉しして再形成。
まぁこりゃ揚げるのが常道でしょう。本物のイガグリを口に入れたら口腔は血だらけですが、これは食えます。やはり和食は楽しい仕事だなぁ、そう思えるのはこういう時かも知れません。
栗の料理などはこちらにまとめてあります
→栗の剥き方