美味い秋刀魚
夏サンマ
サンマの季節が近づいて来ました。
でも8月に入ればもう店頭にサンマが並びます。
「もうサンマの時期か~」
そんな感想を持つ方が多いですよね。
ですがその感想、実は少々オカシイ。
サンマ漁が解禁になるのは8月中旬、小型漁船ならば8月前半です。(主流の「棒受け網漁」の場合。「流し網漁」は7月から始る)ところがそれ以前から全国各地で「サンマフェア」が始っちまう。ワンテンポ早く店頭に並んでしまってる。
発泡の白箱に氷詰めにされて店先に並ぶサンマはピカピカの「生」で、どう見ても鮮魚。
だから普通の人はそれを見て「生サンマ美味そう」って購入する訳ですけども、実際は生は生でも「解凍品」です。
今年獲れたサンマではなく、前年に漁獲された冷凍品。北海道の東でサンマ漁が解禁になる8月前半の微妙な時期に合わせて、その冷凍が解かれて店先に出ます。
この「やり方」は、消費者に勘違いをさせる、もしくは勘違いを期待する業界の思惑を感じて好ましいと思いませんねぇ。
現にそのサンマを見て「もうサンマの時期かぁ~」と感じる人はすでに勘違いをしている訳です。1年以上冷凍保管されていた魚と知っていればそんな間の抜けたセリフは出ない。
冷凍技術の発達で獲れたてのピチピチ鮮魚にしか見えない秋刀魚だからといって、そいつを「新さんま」として売るのはご法度。さすがに現在はそんな悪質な業者はいないと思います。
だが「タイミングを合わせて出す」という売り方が現存するという事は、「昔はデタラメが当たり前だった」という事かも。
「そのおかげで価格の変動を押えて安いサンマを全国の人が食べられる」って考え方もできますが、一見消費者に優しく感じるこの理屈も、実は業界側に「分」がありそうですな。
まぁ何でもかんでも「上から目線」で、業界側の思惑に踊らされるこの国では仕方がないちゃ、仕方ないんでしょうかね。
「ないものねだり」の客もどうかと思うが、それなら業界も「無いものは無いんです」と突っぱねればよい。そうでなきゃ「旬」もへったくれもなくなってしまいますな。
今年獲れた「旬」のサンマを「新サンマ」と呼びますが、その新サンマと「普通のサンマ(去年の)」をどう見分けるか。普通のモンも冷凍で売られてるわけじゃないし、見た目は鮮魚だから同じ。
簡単なこってす。値段がまるで違う。
新サンマのほうがはるかに高価。
解禁初期の品は気軽に買える値段じゃない。
値がこなれるのは9月以降。
なので、ありていに言えば「8月のサンマはみんな去年の冷凍」
大雑把にはそう考えてもいい。
(北海道を除く)
今年のサンマ
8月2日、道東沖で小型漁船(10トン~20トン)によるサンマ棒受け網漁が始まり、根室の花咲港に初水揚げがありました。
しかし秋刀魚の水揚げはたったの「4トン」
なので競り値は昨年のなんと20倍。
1キロあたり4000円くらいと信じ難い高値になりました。
高級魚じゃあるめぇに、こりゃ異常ですよ。
築地市場への初入荷は8月10日で、平均サイズの秋刀魚がキロ2500円から3000円。日本橋のデパートに並んだ新サンマの売値は「1匹1500円」。「なんじゃこりゃ」ですな(~_~;)
水産庁によれば2010年の北西太平洋サンマの推定資源量は221万トン。これは去年の351万トンに比べ約4割減。2003年の調査開始以来最低。どっか人間には想像もつかない場所へ避暑しに行ったんでしょうかね。
「理由は分からない」としてますが、漁師によれば明らかに表面水温が高すぎるとの事。狂気じみた北半球の猛暑のせいでしょうな。秋刀魚魚群はルートを変えて南下してるのかも。
もしかして地震を予知か?
※後日談
これを書いたときは何気なくだったのですが、翌年3月11日、大震災が起きました。
2008年34.3万トン、2009年30.8万トン、比較的好調で30万トンを超えていた秋刀魚の水揚げ量ですが、今年はどうも怪しくなりそうです。秋にかけてどうなるかは、まだはっきり分かりませんけどね。
予測では大型サンマが増えるが、全体の漁獲量は減少する感じらしいです。つまり今年は『サンマ高級魚化』の年になるかも。そして今年以降それが定着するのか。これは杞憂であって欲しいものです。貴重な「天然で季節の大衆魚」が消えてしまいますからね。
美味いサンマ
知り合いの魚屋に色々相談された時に、こんな提案をした事があります。
「良いお客さんを増やしたいなら、新サンマの表示を【流し網漁】と【棒受け網漁】に分ける事。そして差別化が浸透したら流し網漁のサンマをメインにする」
サンマ好きはハラワタのほろ苦い旨みがたまらないという方が多いです。ですが今のサンマのワタなんぞ苦くて食えたもんじゃありません。
それには理由があるんです。
流し網漁とは刺し網の一種でサンマの回遊路に垣根の様な感じで網を張る漁法でして、明治時代からあります。
ところが戦後になって流し網に加えて新しい漁法が誕生。これが「棒受網漁」です。
光に集まるサンマの習性を利用して、夜間に集魚灯を灯し、集まったサンマを一網打尽にする漁法で別名「火光利用棒受網」と言います。
これが1948年頃に登場しました。爾来、大量に効率的に漁獲できる「棒受け網漁」が今のサンマ漁の主流になっています。
メインのサンマ漁法である「棒受け網漁」
これがサンマのハラワタを不味くしているんですよ。
棒受け網漁で獲れたサンマの内臓は「ウロコだらけ」なんです。あまりに大量に捕獲するんで混雑の末暴れてウロコが取れます、それを仲間のサンマが飲み込んでしまいワタはウロコだらけ。
そんな内臓なんか食っても美味いわけがない。
ところが流し網漁のサンマはワタに余計なモンが入っていない。これは全然苦くありませんし、むしろ美味い。
なので昔の人が「サンマはあのワタが美味しくて」と言うのは正解なんですが、昭和30年以降はサンマのワタは苦くて不味いと言うのがより正確な解答です。
考え方ってのは色々でしょうけども、少なくともおいらの店に来てくれたお客に棒受け網漁のサンマを食べさせる事はしたくない。それがおいらの考え方です。
そんなに慌てることぁないでしょう、何も。
初期の新サンマは値段だけ高く、脂はのってません。クソ暑い8月前期に食う意味なんぞまるでない。
刺身がメインの初鰹と違い、秋刀魚は塩焼がメインなのです。
秋刀魚の別表記、魚偏に旁は祭
サンマは「秋刀魚」と書きますが、魚ヘンに祭と書いてサンマと読む場合もあります。この文字はコノシロって意味でもありますが。
【鰶】→ 1 コノシロ 2 サンマ
コノシロ(シンコ、コハダの成魚)が魚ヘンに祭なのは、お稲荷様のお祭りに使う魚だからですが、なぜサンマまで祭なのか。
毎年10月下旬、南房総で獲れたサンマは塩をされて江戸に送られてました。河岸はその量にお祭り騒ぎ。右も左もサンマだらけ。それが11月下旬頃まで続く。その時はまた、鯛で御馴染の恵比寿様のお祭りでもあります。鯛はお高いので皆サンマを買う。そんなこんなで秋の江戸はサンマで大賑わい。なのでサンマも、魚ヘンに祭なんです。
秋の魚なんですよ秋刀魚ってのは昔から。秋の彼岸一月前に食うのは早すぎ。9月から10月の二ヶ月が旬だと言えましょう。
通常サンマの居住は和歌山沖から北海道東岸沖合い。秋に生まれたサンマは道東まで北上しそこで大きく育ちます。成長したサンマは翌年の秋に南下を開始。それから以降がサンマ漁の対象。
北海道沖合い、東北、三陸、そして房総沖と親潮に乗って南下します。紀州へ達するのは翌2~3月あたり。そのまま沖縄付近まで南下する群もいますが、東日本より西に移動した時点で脂の乗りは落ちて行きます。夏の道東の水温は12~13度で、脂肪が必要ですが、西に下がるにつれ水温は上昇。したがって脂は消え、サンマは痩せていくのです。
サンマが出ると按摩が引っ込む
「柿が赤くなれば医者は青くなる」って言葉があります。
それと同じ意味で「サンマが出ると按摩が引っ込む」と言います。
病気の大半は血行障害に根があります。人体の構造を考えればこれは当たり前。
旬の時期に飛びぬけて増える魚独特の不飽和脂肪酸。悪玉コルステや中性脂肪を減らし、脳卒中や心臓病を予防、しかも脳細胞を活性化し痴呆を予防、頭脳を明晰に保つ。
さらにはガンの転移さえも防ぐとか言われております。考えるまでもなく、美容と健康を保つ老化防止になりますのが、魚の高度不飽和脂肪酸。
血管障害を防ぐ食材なんですよサンマは。
サンマ一尾あたりDHAが1398mg、IPAが840mg。
これは食わない手はないでしょう。美味い上に薬なみ。
ビタミンやミネラルも豊富。特にワタにはビタミンAがどっさり。
これに加えて緑黄色野菜を同時に献立すれば、血行に起因する不調であるコリや腰痛やストレス性疲労などにも非常によろしいかと思いますよ。
極上のサンマ
★流し網漁か定置網、あるいは「釣り物」
(極少数で殆どは棒受け網漁ですが)
★体長30センチに近く、丸々と肥えている
★クチバシと尾が黄色く見える
★ウロコがしっかりついているもの
★へたな生よりも産地で塩をしたもの
(モノが好いなら「塩・急冷」が品質が上の場合もある)
脂がのるとこのように口の先が黄色になる
秋刀魚は結局塩焼
「秋刀魚の料理を百種類考案した」
「こんなもんだろう思っていた」
「ところがある日路地裏で老婆が七輪焼きしてる秋刀魚に遭遇」
「そのあまりに美味そうな魚を見て、自分がいったい何をしていたのか分からなくなってしまった」
これはある有名な和食料理人が残した言葉です。
サンマは塩焼きに始まり塩焼きで終わるって事でしょうな。