醤油が旨いか不味いか。
正直な話、小僧の時はそんな事ぁどうでもよかった。
「親方が使ってる醤油なら間違いないだろう」くらいです。
少し関心を持ち始めたきっかけは些細な出来事。
「ねぇ、板さん。なんで醤油を〈ムラサキ〉って呼ぶの?」
おいらはうっと詰ってしまい、スラスラ答えられませんでした。
「そらぁお客さん、醤油ってのはよく見たら紫色だから・・・モゴモゴ」
後で親方や兄さんに訊ねました。
そしたら
「ばっきゃろう!おめぇ。そりゃな、白磁のおてしおに上等な醤油を入れてみりゃすぐに分かるだろうよ。いい奴はサラサラ流れていかないんだよ。そいでドロリと残って張り付いた醤油を透かしてみねい!紫色なんだよ。」
「へぇ~そうなんすか。ありがとざんした!」
そうお礼を言ったものの、内心では、
{ばっきゃろうは余計だよ、このガラの悪い耄碌達はもう~}
{本当の事ぬかしてんのかなこいつらは、またハメようってんじゃ}
なにしろ小僧をおちょくるのが暇潰しって野郎どもですんで。
結局自分で調べてみました。
なんでも、筑波山は「紫峰」とも呼ばれる様でして、これに因んで醤油の名前に「紫」の名を付けた醤油がたいそう売れたといいます。どうもこいつが由来らしい。江戸時代に流行った助六人気に影響された流行色「江戸紫」も少し関与があるらしい。なにしろ助六といえば歌舞伎、歌舞伎といえば寿司ですからね。かんぴょう巻きと稲荷鮨の「助六」の命名もそのへん。幕の内の鮨版ですな。こじつけだけじゃなく多少の因果はあるんでしょう。
旨い醤油とは
毎日買い物に出るおかみさん達は承知の介でしょうが、醤油の種類は馬鹿みたいにいっぱいあります。そりゃもう、うるせぇくらい沢山ある。
90年あたりからでしょうな、こんなに増えたのは。理由は簡単に言えば醤油の値段が安くなりすぎてメーカーが儲からなくなってきたせいです。
「いくらなんでも水(ミネ)より安いのはひどすぎる」
気持ちは分かるが消費者のせいではない。
犯人は流通販売業界。
大規模小売の激安販売合戦に根がある。
結局中国製品粗製乱造の根も同じところにある。
同じ失敗を周期で繰り返しているわけ。
てめぇの首を絞めて・・・って図。
おりしも1億グルメブーム。それに巧い具合に乗っかってメーカーはなんとか活路を開いた。すなわち「特選」やら「超特選」やら「本なんとか」の商品を送り出した『付加価値戦略』
これによって商品を差別化し、オアシを頂戴するって寸法です。このイメージ戦略には他の色々な食品も便乗しました。そいで今現在の「何がなにやら分からん」って状況に来た。なにしろ醤油のシェアの50%以上は大手四社で独占してますけども、各社が競って差別化商品に走るからアイテムは増すばかりです。
旨味の成分はアラニンやグルタミン酸。それは大豆のたんぱく質から分解されたペプチドの窒素量が左右。したがって窒素量の多さで旨味がきまる。
そういう理屈でもって『醤油の等級』は決められます。
特級やら特選ってやつです。
JAS等級制
種類 5種
こいくち
うすくち
たまり
さいしこみ
しろ
等級 三段階
特級
上級
標準
業界自主基準
特級のなかで
窒素分が1.1倍以上『特選』
窒素分が1.2倍以上『超特選』
醤油の大まかな歴史
しかしこういった表示はすべて無視してけっこうです。
知るべきは原料。
「脱脂加工大豆」か「丸大豆」か。
脱脂加工大豆とは油を搾った大豆カスでして、ですからたんぱく質の含有量は丸の大豆よりも高くなります。なので窒素も多い。したがって先の理屈で言えば丸大豆よりも旨い醤油になるはずですね。
しかしそうは問屋が卸さない。
醤油の旨味は複雑怪奇なのです。
『鹹味』『酸味』『苦味』『旨味』『甘味』
これに香りが加わっています。
窒素量がウンヌンでは解決しないんですよ醤油の味は。
丸大豆を長期で熟成させた醤油にはこの複雑な味が出る。
大豆搾りカスではこの味は真似できません。
搾りカスっても搾ってる訳じゃなく有機溶剤で薬品抽出。
大豆の素性も分からなくなる。
熟成期間が長いのは「余計な物を入れてない」って事にもなります。
醤油は塩分とアルコールのせいで保存がきく食品。
しかし保存性を高めるほど塩分を加えれば熟成が遅い。
1ほど寝かさないとアルコール度も不充分。
生産効率が第一の業者は保存料やらを添加する訳です。
つまり醤油の表示の見方は、以下。
原料は大豆・麦・塩だけ
「丸大豆」「長期熟成」「無添加」
しかしこれで本当に美味い醤油を選んだ事になるか。
そいつは分かりません。
そもそも醤油は強い塩味がメイン。
一般の方が味の差を確認できる食品でしょうか?
例えば豆腐や寿司に使ってはじめて旨味を感じる類の品。
微妙極まりない調味料なのです。
大豆・麦・塩にこだわった醤油でも「有機栽培の大豆」でなければ意味が無いんですが、有機栽培に適す大豆ってのが怪しい・・
そんなこんなでキリってものがありません。
それでは美味い醤油は無いのかと言えば、有ります。
速醸の「化学醤油」の尖がった刺すような刺激のあるツンツク醤油の味をご存知の方も多いでしょうが、塩分があっても柔らかく、しかも香りのある醤油ってのは存在いたします。
Comment
コメントを閉じる
遥か遠い昔、中国に酒づくりの大変うまい男がいた。 名をば「杜」という。
杜子春の「杜」である。
この男の造った酒は皇帝も大層お気に入りでしたが、この男は酉年の酉の日の酉の刻に死んだ。
このことを哀れに思った皇帝は、それから酒を造る人のことを「杜氏」と呼び、酒に関するものにはすべて「酉」編を使うようにと。
「酒」という字は本来は「サンズイ」で調べるものではないそうです。 「酉」編で調べるのが正統なのだとか。 戦前の辞書では「サンズイ」には「酒」は入っていません。 戦後、ある知ったかぶり(?)の学者が「サンズイ」に入れてしまったのだそうです。 何時の世にもいますよね、こんな人が。(笑) 国語審議会なんていまだに漢字を増やしたり減らしたり、あれって国民にどれだけメリットがあるんでしょうか?
「酉」編、ご存じでしたか? お酒の好きな方々。
ロシアで消息を絶った大庭可公(読み方によっては大馬鹿公と読めますが)の書物にくわしく出て来ます。
酒、酔、酢、酌、酩、酊、酎、酬、酸、酪、・・・・
まだまだいっぱいありますが、「醤油」の「醤」にも「酉」がありますよね。
米や、麹、大豆、麦などを発酵させて、絞る、その一連の過程が「酒」の過程と似ているからなんでしょうか。
先日、千葉の某醤油工場へ行きましたら、帰りに「本膳」とやらを土産に持たされましたが。 笑
Posted by 飛車角 at 2009年06月02日 17:17
和食の歴史を辿ると沢山の事例が出てきますね。
そのような例はキリがないくらいある様です。
現代の英語ではない英単語混じりの日本語も変。
でも日本文字の導入経緯を考えれば仕方ないんじゃないでしょうか。
全部を仮名表記するわけにはいきませんしね。
漢字とはいっても中国とは別離して独立してる訳ですし。
どんなに妙なモンでもそれが日本語ではないでしょうか。
中国語でも英語でもありませんので。
Posted by 魚山人 at 2009年06月03日 08:51