鮨の通

  

『すし通』とは

「すし通」とはね、
やれ
「味の薄い白身から頼む」だの、
いまどき
「ギョクや穴子やコハダ等職人のウデが分かる物から」とか、

ましてや、
板前に向かって魚や食材のウンチク

はては、
その店のメニューに無い
「コハダを刻んで細巻に、あ、大葉とガリも一緒に」
なんてマキモンを頼んでそれで職人の腕が判断できるとか、

そんな類の、
いかにも「トウシロ」が考えそうな行為をする者ではありません。



だいたい鰤とハマチの違いを正確に説明できぬレベルで魚のウンチクをたれても仕方がねぇし、「煮物」や「光物」を頼んで職人の腕を見極めるってアナタ(笑)、漫画じゃあるめぇし、やめてくださいよ。

魚介の吟味からさばき方、下ごしらえから塩加減、その塩はどんな塩か、あたりの醤油はどこのどんな醤油なのか、煮加減は?火が入りすぎてないか、酢が回りすぎてないか。

そんな煮・〆仕事の微妙な違いを明確に言えるなら、京都の老舗料亭の花板になれます。もしくは「鬼の北大路」、グルメの巨頭ロサンジン並の食通。

気取った真似は、しないのが一番です。

鼻がヒン曲がりそうなろくでもないシロモノを出す職人以外は、どこの鮨屋行ってもそうそう変わるものではありません。

寿司業界も甘くはありませんので、「ろくでもないシロモン」を平気で出してる店など無いですし(少なくとも都内では)、看板揚げてる以上どこの店でも食えるものを出しています。

まぁ人様の嗜好はそれぞれですので、
「エンガワとか大トロやウニ、脂やコッテリ派」
でもいいし、
「トロは下品だから駄目。鮨はヒラメ等白身と光物」
それも結構。

しかし妙に張り切って「上トロ下さい」とか、
真夏なのに、「天然のヒラメありますか?」とか、
そういうのはやめといた方がいいでしょう。

板前から言われます。
「お客さん《上トロ》って何ですか?」
「天然ヒラメは冬にしか入れてません」

鮨種のマグロは赤身と中トロと大トロ。そして頬肉。各部のすき身。
上トロってのはどこぞの大衆チェーン店が店内用に勝手にそう呼んでるくらいのもので、ヨソの鮨屋に行って通用する言葉ではありません。

トロに関して特注したいのであれば、
「中トロの血合いぎしありますか?」
「ワカレ身の筋をハネて握ってください」

「カマ下の大トロを」
「大トロの蛇腹を解いて叩き、手巻きに」
「霜降りを網焼きにし、脂を少し飛ばして」
もっとも、これはよほど馴染のある鮨屋以外では言わぬ方がよいです。

また、白身を名指しで注文するのなら最低でも旬くらいは知っておくべきです。

バルサミコとかキャビアを鮨屋で食いたいのならば、港区あたりにお回り下さい。場所柄を弁えるのが賢明ってもんです。

寿司屋でならメニューを無視してもよいか

寿司ツウとは

すし通とは、「その職人が一番握りたがっている鮨を頼める人のこと」です。決して知識をひけらかし、偏った好みを他に押し付ける人を指しているのではありません。

職人も長年やっていれば自分の得手、不得手くらいは理解しているものです。つまり自信のある仕事とそうでない仕事がある。

自信を持っている仕事はますます磨きがかかるもの。
つまり「美味しい」って事になります。

職人が自信をもっている仕事、
それが「コハダなど光物」なのか、「穴子など煮物」なのか、
はたまた「地魚を見極める達人」か、
「タコを煮させれば右に出るものなし」なのか、

多くの場合、バカでかい看板を出し、「うちはタコが得意です」みたいな真似をしてるところはありません。もしあれば、その店で一番不味いのがタコです。

しかし職人はあまりにもその仕事に自信を持ち自慢なので、逆に自分からお客さんにすすめません。(自分のかあちゃんが超美人すぎると隠したくなるのと同じです ?笑)

ましてや、下手に通ぶる嫌な客になど絶対に出さない。

その「隠し玉」をどうやって披露させるか。
それを簡単にできるのが「通」なのです。

つまりは寓話の「北風と太陽」なんですよ。

素直で謙虚な態度。
それプラスある程度の舌を持っている事を示す。

いくら感じの良い人でも、自慢のかあちゃん(いや、鮨でした (^^)をね、「最高」だと理解できない方には披露できません。

偏屈だが、それが職人ってもんなんです。

そこらへんのグルメ本、とくに寿司関係の本には驚くほどデタラメを書いているものが多いです。グルメ番組は言うに及ばず。

そんなモンで半端な知識を得て、妙に通ぶるのは絶対禁物。

寿司屋といえども普通の人間です。
人間の胸襟を開くのは常に同じやり方でよい。

お寒い「北風」を吹かせるのでなく、
太陽のように暖めればいいのです。

山の様にある鮨屋が一律同じである訳はない。
味に対する考え方も職人ごとに違う。

そういう世界で、自分の嗜好に合わぬからと言って職人に間違いを指摘するのは愚かしい行為です。

それが「にわか通」
そういう人間は他人を責めるのみで、良さを引き出せない。

好みに合わねば黙って箸を置き、静かに代金を払って去ればいい。
二度とその店に行かなければいいだけの話です。

鮨職人が隠している「最高の技」
それを引っ張りだす人間こそが「すし通」なのです。

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