コクタン柄と本焼庖丁
黒檀柄
黒檀(コクタン)とはカキノキ科の熱帯性常緑高木で、英名のIndian Ebonyから知れる通り、産地はインドの南部やスリランカで、アフリカの一部にもあるし他の熱帯地方にも移植されていますが、インド産にはあらゆる面で及びません。
別名を「黒木(クロキ)」ともいい、エボニーがピアノの黒鍵を意味しますように、心材が黒い(黒と赤の縞目)のが特徴です。稀に真っ黒なものがあり、これが「真黒(マグロ)」で、これを本黒檀と呼びます。縞目が著しい縞の紋様(杢)のものが「縞黒檀」です。
コクタンは非常に硬く重い材質で、「耐久性」がずば抜けております。したがって楽器の他家具や仏具など長い使用を目的としたものに使われる高級木材です。ピアノの黒鍵やチェスの黒駒などが代表的な使用例。
和食の板前にとっても黒檀という名は御馴染のものです。
庖丁の柄にこの木材を使うからです。
柄と鞘に黒檀を使っている和庖丁
上二点の画像 堺の包丁屋【堺屋】www.rakuten.co.jp/sakai/
庖丁柄の種類
和庖丁の柄は大きく以下の4種に分かれます。
P柄
Pはプラスチックの略です。
朴の木の安い部分(辺材)を使用し角にプラを使っています。
価格が非常に安いのが特徴。
朴水牛柄
水牛の角に朴の良い箇所(心材)を使っています。
庖丁屋で見るのはほとんどがこれになります。
櫟水牛柄
櫟(いちい)の木に水牛の角です。
櫟は朴よりやや硬くて耐久性が優れています。
黒檀柄
硬くて水に強い。耐久性は他を圧倒します。
しかし価格面から主に本焼庖丁などに使用されます。
黒檀には間違っても楔を打ちこんではいけません。
この硬さですから一発でアウトです。
※角は口金部分
角に水牛ばかりではなく、象牙・銀さらには金・プラチナ等のケースもあったりします。柄に銀を巻き込んだものが「銀巻き」
上記の様に和庖丁の木柄は殆どが「朴」なのです。
これは朴の木が柔らかで軽く、しかもある程度水にも強いからです。つまり庖丁柄に適しているのですね。難点は耐久性。長く使用してますとヘタってきます。
黒檀柄と本焼
黒檀の場合はほぼ「一生」持ちます。
尺寸あった刃がペティナイフくらいのサイズになるまで使い込んでも、黒檀柄そのものはまったく変化しません。つまり刃の寿命よりも長く、こうなると本末転倒のような気もしますがそれくらい丈夫って事ですな。
下画像の下から二番目が黒檀柄の本焼庖丁
ここまで刃がチビになっても柄自体は新品時に尺三だった刃に合った元のサイズのままです。(しかしこの本焼の持ち主は手入れを間違えていると思いますよ。こんなにチビルのは荒砥でも使ったとしか思えない。可哀想ですな庖丁が)
朴の柄は痩せはしますが割れにくいものです。
こいつは割れておりますな
これはね、朴自体の耐久性の問題ではなく「水腐れ」です。水が浸透し、内部が腐っているのですよ。
中子も錆びて、その圧力も加わり破裂したのだと思います。いつも拭きあげもしないで濡れたままにしてたんでしょうな。
いくら黒檀が水に強いといいましても、まったく吸わないわけではありません。やはり木材ですから水気には気をつけねばなりません。
そこでおいらは水と手脂から完全に防御する為に、黒檀に防水加工をしております。
ボブ・クレーマーの庖丁を真似て、自分の手にピタリと馴染む形にカスタマイズした黒檀柄。
八角型巻き仕様ですが、角にかけて細くなる緩やかな涙滴形で、手元は小判よりやや丸くなり角を消しております。
もちろん庖丁は刃が命。
その刀身を補助する柄はあくまでも添えでしかありません。寿命が尽きるまで「チビ」になどしないつもりです。
大事に研ぎあげて、最後まで機能美をなくさせません。波紋が消えたらそれはもう本焼庖丁とは言えませんので。