魚を切り身にする方法

  

魚の切り方・カットの仕方

魚を切り身にするには、まず切り身の元になる上身と下身を理解しなければいけません。上身(じょうみ)とは魚を三枚に卸し、皮、骨、血合いを除いた正味の肉の事を指しています。ですので「正身」とも言います。(これは鳥肉等も同じ)



じょう身とうわ身

ハマチやシマアジなど青魚類や大型の白身魚は、血合いも小骨も片身を二つ割にしないと除けませんので、上身イコール節(背・腹)だとも言えます。

上身

サク/節

一方、上身(うわみ)とは魚の左側面のことです。
(頭を左にし、魚を立てた場合の左身)
頭を左にして寝かせた場合上になりますからこう呼びます。
この反対側、つまり右側面を下身(したみ)と言います。

上身側

下身側

漁獲された魚は、漁港セリ~市場~店に並ぶまで、その間ずっと頭を左向きに置かれた状態で流通します。ですから魚自身の重量によって下身が先に悪くなります。いわば上身と下身は価値が異なるのです。その事を理解している料理人は、きちんと下身と上身の区別をして処理します。極端にいうと【下身は加熱用】【上身は刺身用】というわけです。そこまでいかなくとも、「先に下身から売ってしまう」というのがプロの心得。

さて、魚は焼くにしろ煮るにせよ切らなきゃいけません。(姿料理を除いて)

行儀切り・羽切り・飾り切り

和食の板前が魚を切り身にする場合、普通は【行儀切り】にします。垂直に一文字包丁を入れて角が立つのが理想。器や盛り付けからもこれが適しています。

行儀切

しかしですな、ご家庭ではこの真似をする必要は無いと思います。例えば鮭を1本もらったとしましょう。それを行儀に切れば数がとれません。身が厚く火が入りにくいので料理が大変、串もありませんしね普通は。

それらの問題を解決する切り方が【ハネ切り(羽切り)】です。

魚屋の店頭でパックされたサケやブリの切り身、あれがそうです。

仕事の内容よりも「経済性」が優先される現在では、行儀に切るのも珍しくなっています。それでもさすがに料理屋で羽切りはちょいと格好が悪い。

それで、行儀と羽切りの折衷ともいえる【飾り切り】が広く使われています。

 

一般的に切り身とは羽切りを指しているようになってますので、ハネ切りのコツなどを書いておきます。

切身の切り出し方とコツ

はね切り

ハネ切りは通常、魚を三枚に卸してから庖丁します。振り子の様に庖丁を動かしながら切る振り子庖丁が理想です。少し説明いたしましょう。

魚を均一に切る振り子庖丁

魚というのはご存知の通り、扱いやすい真っ直ぐな長方形ではありません。頭を落として捌いた身は涙滴型に近いですね。ですからこれを垂直に等間隔でカットしていけば、当然同じサイズの切り身になりません。

尾の方が小さくなりますし、切り始めと切り終わりがどうしてもイビツな形になります。これを、できる限り「同じ幅」「同じ長さ」「同じ重量」に切るのが、切り身の理想です。これは刺身であろうが切り身であろうが同じです。

そのコツは、
・包丁を振り子の様に移動させながら切る
・切り始めの一切れと切り終わりの一切れを魚体幅が平均になってる部分に合わせて大きくカットする
この2つです。

図にすればこうなります。これは上身側。

AとBを中央の斜線部分と等しい大きさにする為に、包丁を矢印方向に振りながら最初の数切れをカットするんです。

包丁の動きは下のようになります。

最初の一切れを大きく斜めにとり、中央に行くに従って角度を固定していく

切り終わりは、角度はそのままだが最後の切り幅を大きく

赤線までは下部が広く上が狭い。黒線から上下均一幅にする。

包丁を斜めに寝かせるのがコツになります。

これによって涙滴型をした魚の身を均一に切れるわけです。包丁の先はほぼ固定ですが、手元の方は振り子のような動きをしています。

次に反対側の下身。
今度は刃先の方が振り子の動きをし、手元は動かない。

魚の繊維に沿って切るから包丁が逆になる訳です。

これは上身(片身)だけではなく、節(サク)でも同じことです。
包丁の向きを最初と最後だけは深くしなければいけません。

最後の一切れになると、包丁の角度が極端になっています。

こうしないと切り身全体が同じサイズにならないからです。

鮨ネタでも刺身でも切り身でもポイントは同じですね。
切った身をこうして十枚ほど重ねれば、

その意味も理解出来るのでないでしょうか。

※生食用の場合は無理に始めと終わりを使うのは考えモンです。尾先は筋があるしカマ側は繊維が荒いからです。よく考えて使いましょう。

刺身も鮨種もそして切り身も、そのポイントは共通してるという事がなんとなく分かって頂けたでしょうか。以上の事を念頭に置いて、サーモンをハネ切りしてみましょう。

鮭をハネ切りにする

これもやはり最初の一枚と最後の一枚を大きく切るのがポイント。

最初は大きく斜めに切り取り

包丁を振って角度を徐々に戻しながら次を切っていく

そうする事で切り身全体のサイズが揃うわけです。

※塩のきいた鮭や、冷凍の硬いものは、身を下に向け皮から切り込んだ方がやり易いし安全でもあります。その場合でもやはり要領は同じです。全部を同じサイズにするという事ですね。


サケとマス


魚を切り身にするときの「筋目」

大きな魚を切り身にする場合

大きい魚(ブリなど)の片身をそのまま切るとやや大きい。これは焼物・煮付けの単品ならそれでいいです。それで一皿ぶんですからね。

だが、盛り合わせに使う焼物としては大きい。弁当や折詰、お重、献立の脇役として使いたい場合は少し小さめにカットしたい。

 

このくらいが適当でしょう。

大きな魚は、下画像の線のように切り離し、片身を三等分や四等分の長柵に切り出してから切り身にカットします。

中程度の大きさの魚ならこちらを参考に 節の切り分け方

魚の筒切り(輪切り)

もう一つの切り方、「筒切り」も紹介しておきましょう。

魚のおろし身をハネた切り身ですと焼き物等には適しますが、煮物など汁を使い加熱する調理方法にすれば崩れてしまいます。そこで魚体を輪切りにする「筒切り」にする訳です。代表がサバの味噌煮です。

黒ソイと子持ちニシンを使って筒切りを紹介します。

白身魚の筒切り

クロソイはカサゴの親戚です。船釣りをする人には御馴染の魚で寒い時期が旬。おそらく日本各地でよく見る魚でしょう。それが為に地方名が非常に多いです。北から、ナガラソイ、クロハチメ、クロスイ、クロカラ、カラス、ガブ、ガクといった感じですね。新鮮なら刺身も美味いですし、煮つけや揚げ物でなかなかのお味。

まず煮付けに向いた筒切りをクロソイを使い説明します。クロソイの場合比較的小型ですので、腹を切らずにツボヌキにしてエラと内臓を出す方が良いでしょう。そのほうが煮崩れしなくなります。
魚のつぼ抜き

胸のヒレは汁物ですと臭みが出ますし、ウロコを残す原因になりますので切っておきましょう。

持ち上げて、

付け根から切断して除去

このあとウロコを引き、水で洗い落としておきます。腹の中も洗っておきましょう。姿のまま揚げたり煮たりするならこうやって斜めに一本切り込みを入れておくだけでよいです。

※三枚におろして切るやり方はこちらを御覧ください
黒ソイのじゃっぱ鍋

さて筒切りです。
身の硬い白身魚は、ハネ切りの要領で魚体に沿って斜めに庖丁を入れて筒にします。

頭を使わない時は以下の様にします。

中骨に残った血は、臭みの原因になりますので取り除いて下さい。

赤身魚の筒切り

次は輪切りに近い垂直に切り落とす筒切りです。
青魚等の身の弱い魚ですと、庖丁を斜めにせずに真っ直ぐに輪切りにした方が崩れる心配がありません。サバなどがそうです。

北欧からの輸入で比較的安く入手できる子持ちのニシンを使って筒に切ってみます。卵(数の子)が楽しみですので内臓は出さずにそのまま切りましょう。(子持ちになる旬の時期の魚はこのほうがいいですね)

まずまずの大きさですので、5等分に切りましょう。

五分割する場合は頭側を三分の二残した部分あたりに庖丁を入れてカットします。

次に右側(尾の方)を三等分に切ります
(尾は少し大きめに)

そして左(頭側)を二等分に

生の数の子がびっちり詰って美味しそうですね。

※サバの場合は、胸ヒレを残して頭をカマ上から真っ直ぐに切り落とし、その切り口からハラワタを引き出して筒に切ります。腹は切り開かないほうがいいです

魚の基本的な切り方を紹介して来ましたが、如何でしたでしょうか。難しそうに感じた方もいるかも知れませんが、やってみれば意外と簡単なものなんですよ。記事を見て「やれば出来そう。やってみよう。」と思われる方が一人でもおられましたら、筆者としてこんな嬉しい事はありません。