和食の「あたり」
基本のだし
一番だし
水1・8リットル 昆布30グラム かつお節削り50グラム
昆布は前の晩から水につけておきます。火にかけ沸騰直前に取り出します。沸騰したら火を止めるか、差し水をして鰹節削りを加え、沈んだらアクを取り、静かに漉します。
二番だし
水1・8リットルに上のだしがらを加え30分ほど煮出し、追いガツオ(削り節)する
一番は煮物や合わせ出汁用に使い、二番は煮炊き、味噌汁などに使います。
吸い物用にする場合は、昆布は真昆布1等か利尻昆布を使い、水に浸けるだけで加熱しません。鰹節削りも本枯れ節の雄節(背節)の薄削りを使用します。この場合水道水は避けます。
蕎麦用のだしは、亀節厚削りやサバ節を使い濃厚にとります。
煮炊き目的の出汁なら、昆布は羅臼昆布や日高昆布で良いでしょう。
合わせ(調味・割り)だし
吸地
だし3カップ 塩小サジ1 薄口醤油少量
八方だし
だし8~25 味醂0.1~1 薄口醤油1
八方は基本的な地で、用途も多く、主に野菜の煮物に使います。割合もそうですが、八方(多方面)に使える便利さからの名です。だしを加熱して味醂、醤油を加えます。濃口醤油に変えて濃厚にすれば「濃口八方」にだし10に味醂0.5、塩、薄口醤油を微量にすれば「吸地八方」に。これは青野菜の下味によく使ます。他に、だし8 酒2 味醂1 醤油1の「酒八方」味醂の量を増やす「甘八方」などもあります。
浸し地
だし8~15 味醂0.1 薄口醤油1
野菜を薄味に仕上げる地です。
旨だし
だし3~6 味醂1 濃口醤油1
いわゆる「煮物」用の調味です。材料に色をつけたくない場合は薄口醤油に、魚介を加える場合だしを酒で割ります。
煎りだし
だし5 味醂1 薄口醤油1
魚貝の唐揚げなどに薬味とともに出すタレになります。つまり唐揚げ用の天つゆ。
天だし
だし4 味醂1 濃口醤油1
もっとも基本的な「濃い旨だし」で、天つゆ他蕎麦つゆなどの基本配合です。
出汁を減らしたり、調味料を加えたり、好みで加減します。
薄い合わせだしに、水溶き片栗粉や、葛を加えれば「吉野餡」
吉野あんを薄く作れば「銀あん」
濃くすれば「醤油あん」または「べっこうあん」
赤梅肉と砂糖を入れれば「梅肉あん」
冷たい料理にはゼラチンを加え冷やし固めたものを。
料理の趣向で、食材に合わせて色々使い分けます。
つけ地とたれ
焼きだれ
味醂1~ 酒1 醤油1~
この配合は各地、各店、各料理人で極端に違います。味醂か醤油を2にする人が多い様です。さらに砂糖かザラメかを加えた後、たまり醤油を足す場合もあります。どちらにしても、酒と味醂のアルコールを飛ばし、二割から三割くらい煮詰めて仕上げます。
鰻等のたれ
味醂1~ 酒1~ 醤油0.8~ 頭 中骨(焼いたもの) これも同様で、このままの配合でたれを作る店はあまり無いでしょう。うなぎ、はも、あなごなどを蒲焼にする時のたれです。焼酎、ザラメ、砂糖、水飴などを加え甘みを強調することが多いです。煮出した後、漉して使用します。
佑庵地
酒1~3 味醂1~3 濃口醤油1 柚子
茶人、北村佑庵が伝えたという話があり、佑庵焼きと呼ばれる様です。字は幽庵でも柚庵でも間違いと言う訳ではありません。魚の切り身をつけ込む代表的な地です。
若狭地
酒5~6 味醂1~1・5 薄口醤油1
若狭焼きの地です。
くわ焼きのたれ
酒1・5 味醂2 濃口醤油1
鍬焼きのたれで、薄味の場合は酒1 味醂1 薄口醤油0・5
ウニ焼きの衣
練りウニ100グラム 卵黄1個 酒少量
煎り酒
酒10 味醂1 薄口醤油1 白梅酢0.3 梅干10個 かつお削り節500グラム 爪昆布20グラム
全部を入れ、蓋をして弱火で2割ほど煮詰めます。冷めたら漉して使います。主に白身魚の昆布じめ等のお造りを食べる地で、懐石でよく使います。また、香ばしく煎った米を加えるやり方もあります。梅しょう油はこれとほとんど同じ作り方をします。梅肉しょう油とは土佐醤油に梅肉を溶いて酒でのばしたものです。
しゃぶしゃぶのたれ
醤油だれ
酒又は赤ワイン2 味醂1 濃口醤油05~1 おろし玉葱適宜 好みで砂糖、香辛料各種
胡麻だれ
鶏ガラスープ5 みがき胡麻3 味醂0・5 酒0・5 濃口薄口醤油各1 隠し味に腐乳豆腐やタバスコ、アンチョビなどを
胡麻だれ2
あたり胡麻5 酢4 味噌3 酒3 醤油2 砂糖1 味醂1 ラー油少量
刺身醤油
濃口醤油1 たまり0・3 昆布
土佐醤油
濃口醤油1 味醂0・2~ たまり0・2~ 鰹削り節
調味みそ・つけ床
玉みそ
白味噌1 酒0・5 味醂0・1 砂糖0・1 卵黄1
すり鉢ですり、弱火で練りあげ裏漉します。酢味噌やからし酢味噌、木の芽味噌などのベースになります。
酢でのばせば酢味噌。芥子を加えれば芥子酢味噌。青よせ(ほうれん草ペースト)を加えれば木の芽味噌。蓼と酢で蓼酢味噌など。
田楽味噌
赤味噌1 酒0・3~0・4 味醂1・5 砂糖0・4~0・5 卵黄5
弱火で練りあげます。白味噌田楽の場合は砂糖を増やします。*味噌を弱火で練る時は30分前後かかります。焦げる心配がある場合湯せんにすると良いでしょう。卵黄は仕上がり直前に加えます。
味噌漬けの床
西京・信州などの主に白粒味噌と一割前後の酒、味醂、砂糖を好みの配合で合わせます。つける目的によって固さや甘みを加減します。魚をつける場合は甘酒を加えると身が締まりません。
練り粕
粕1 酒0・5 水 0.4
ちぎった酒粕を酒水に5時間浸し柔らかくなったら裏漉し。粕汁や甘酒に。
粕床
練り粕1 白味噌1
固さを酒で調整して材料をガーゼ等で挟んで漬ける。
糠床
米糠1キロ 水戻しのみの昆布だし1リットル 塩60~70グラム 鷹の爪10本 サビ釘10本くらい
煎った糠にその他の材料を加え、日に二回ほど混ぜ返し、そのつど野菜くずを漬け込む。1~2週間慣れさせてから塩ずりした野菜を漬けていく。水を拭き取ったり、塩、煎り糠を加えたりして面倒を見る事。
合わせ酢
ぽん酢
橙汁か市販のポン酢1 濃口醤油1
好みで 味醂0・1 酒0・1 昆布 鰹削り節各適宜
二杯酢
酢2 薄口醤油1 味醂1
二杯酢は酢に醤油を足して加減したもので、主に魚介の酢の物に
三杯酢
酢2 薄口醤油1 味醂1
三杯酢は幅広く使用しますので、食材によって出汁や砂糖や酒を加えます。
甘酢
酢1 味醂1 塩少量
甘酢2
水5 酢2 砂糖2 塩少量
2のほうが広く使われる様です。
土佐酢
だし5 酢2 味醂1 薄口醤油1
火にかけ沸騰前に火を止めて追いガツオします。
もずく酢
だし10 酢1・5 味醂1 薄口醤油1
なまこ酢
だし10 味醂0・5 砂糖1・5 酢3~4 濃口醤油1・5 塩少々
南蛮漬け酢
だし10 酢3 味醂1・5~2 薄口醤油1
アジなどの食材を揚げた後、油抜きし、鷹の爪、針生姜、焼き葱などを加えた熱いつけ酢をかけて漬け、レモンの輪切りも入れてつけ込む。
胡麻酢
土佐酢1 白みがき胡麻1
煎った胡麻をすり鉢ですり、土佐酢を加えながら加減する。好みで砂糖も加える。
吉野酢
甘酢をだしで割り、水溶きの葛を加えとろみをつける。
みぞれ酢
甘酢又は土佐酢に倍量の大根おろしを加える。
みどり酢
甘酢に倍量おろし胡瓜を加える。
おろした大根、胡瓜は水気を軽くしぼっておきます。
黄身酢
吉野酢を湯煎にかけ、卵黄数個分を加えて練る。マヨネーズくらいの固さになれば、鍋ごと冷水で冷やし、なお混ぜる。
梅肉酢
梅肉1 薄口醤油少量 酒2 水溶き葛 砂糖(好み)
白酢
水切り豆腐 胡麻 甘酢
重しをしてよく水を切った豆腐を白胡麻とすり鉢であたり、裏漉しして甘酢でのばします。
他にショウガ酢、海苔酢、辛子酢、松前酢など多数あります。
和え衣
白和え衣
木綿豆腐10 白みがき胡麻1 シロップ(砂糖蜜) 塩水 薄口醤油
サラシやキッチンペーパ等でくるんだ豆腐に重しをして数時間おき、水を切る。それを裏漉しにかける。胡麻をすり鉢でよくあたる(油が出るまで)そこに漉した豆腐、蜜、塩水を味をみながら加え、最後に醤油を少量加える。それをさらに細かく漉す。和える食材に応じて、出汁で適宜のばして使う。
胡麻和え衣
胡麻100グラム だし100ml 味醂、薄口醤油各少量
すり鉢であたりながら調整します。
うに衣
ウニ 卵黄 酒 味醂
弱火で練りあげ、裏漉しして使う。
卯の花
オカラ 卵黄 だし 酒 塩 砂糖
オカラを布袋に入れ、水の中で白濁が無くなるまで揉む。さらに裏漉しにうつし、「水ごし」を続ける。三割ほどの量になれば布袋で絞り、調味料を加え2時間ほど弱火で煎りあげる。
和え衣は、あげればキリがないほど色々な種類がありますので、創意工夫してみて下さい。
合わせ調味
そうめんつゆ
だし10 醤油1・5 味醂、砂糖適宜
蕎麦つゆ
だし10 醤油3~4 味醂、砂糖適宜
寄せ鍋類
だし 味醂、醤油、塩適宜
茶漬け
だし 塩 薄口醤油
玉子豆腐
溶き卵1 だし2 酒、味醂、塩薄口醤油適宜
茶碗蒸し
溶き卵1 だし3~4 薄口か白醤油 塩 好みで砂糖
ドレッシング
サラダ油 酢 (水、醤油、塩、砂糖、玉葱卸等各香味野菜ハーブ)
寿司の調味料
寿司合わせ酢
酢180ml 砂糖100g 塩30g
ちらし寿司や太巻きは砂糖を多くし塩を控える。関東では砂糖を使用しない店もある。
つけ醤油(寿司醤油)
生醤油を使うところと、味醂、酒、砂糖、出汁で割ったものを使うところ様々です。
煮穴子
水 砂糖 醤油 酒
煮穴子(白煮)
水 砂糖 味醂 塩
鮨屋では白煮でも薄口醤油や白醤油を使う場合が多い。
煮ツメ
穴子の煮汁に焼いた穴子の骨を加え煮る。それを裏漉しして、砂糖、味醂醤油を足す。アクを取りながら煮詰めていく。最後に紙(和紙や新聞紙)にアクを吸わせて仕上げる。ハマグリやイカやシャコの握り(煮物)にも使います。(昔は各自の煮汁から作っていた)
ヅケ醤油・煮切り
醤油6 酒4 又は醤油1 味醂0・1
軽く煮たてて使う。
酢バス
蓮根の皮をむき、薄く切り、バン水(みょうばんを溶かした水)につける。ザルにあけ水切りしておく。甘酢にミョウバンを少し加え沸騰させ、そこにレンコンを加える。すぐに火を止めザルに広げて冷ます。冷めたら酢に戻し、鷹の爪を加えておきます。(ちらし寿司に使う飾りレンコンを酢バスと言います。皮をむいて花型に切り込みを入れて、薄い食紅水に浸けて桜色にする場合もあります)
かんぴょう
干瓢1 砂糖1 醤油、味醂
カンピョウは塩でよく揉み洗いし、しぼって水から茹でる。さし水しながら指で切れるくらいの柔らかさまでゆで、ザルにあけて水切り。湯を沸かし、砂糖と醤油を加え、よくしぼったカンピョウを入れ色が染み込むまで煮る。仕上げに味醂を加えて照りをつける。
しいたけ
乾燥椎茸1キロ 椎茸の戻し汁5合 醤油5合 砂糖1キロ 味醂1合
水(砂糖水やぬるま湯だと時間が早い)に椎茸を入れ、戻す。(三時間以上~一晩)椎茸の石付きを落とす。鍋にもどし汁と砂糖を入れて沸かし、水気を絞った椎茸を入れて煮る。醤油を三回くらいに分けて加えていく。最後に味醂を加えツヤをだす(固くなるので入れなくてもよい)汁がなくなるまで煮る。
だし巻き玉子
卵8~10個 だしカップ1/3 砂糖100g 薄口醤油、味醂適宜
(寿司用のだし巻きは、だしを少なくしないと握りにくい)
厚焼き玉子
卵12個 すり身(白身魚やエビ)200g 砂糖50g 塩少量
鍋に蓋をして、トロ火で時間をかけて和菓子様に仕上げる。
オボロ
芝エビや魚肉のしんじょ1キロ 砂糖200~300g 塩、味醂、食紅少々
すり鉢であたるか、ミンチにした魚肉を裏漉して、時間をかけて炒りあげる。
ガリ
酢5 水3 砂糖3 くらいの甘酢
新ショウガの皮をむき(包丁よりスプーンがよい)薄くスライスする。沸かした湯にさっとくぐらせ、冷水にとり、そのまま水にさらしてアクを抜く。水気を取り、甘酢にうつし、つけ込む。新生姜の紅い部分を入れればピンク色のガリに、入れなければ白ガリになる。
味をつける事を、『あたりをつける』と言います。
関東と関西、九州と北海道では当然ながら味付けも違いが出ます。これは自然な事で、大企業が作る画一的なインスタント食品の様に、規格統一された全国一律の味のほうがむしろ不自然だと思います。ですから【基本的な和食の調味割合】も絶対ではなく、環境等に合わせて変えるのが望ましいと考えます。全国の和食店が同じ味になって行くのは、ある面で「文化の崩壊」でもあるでしょう。
同じ系列の和食チェーン店があるとしましょう。その系列の店が全部同じ味になるのが、経営サイドには理想というか絶対条件になるでしょう。しかしそうはならないのが料理というものなんです。絶対に同じ味にはならないし、ならない方が正しいのです。もし同じ味になりえるのなら、料理人は必要が無いとも言えます。そしてその同じ規格で同じ味のものは、「料理」ではなく「商品」であり、「食品」でしかありません。企業というものは、その状態になるのを本質的に望む存在でもあります。現在の社会はこの流れに乗っているからこそ、家庭から鰹節が消えたりもしているのでしょう。料理の原点に立ち返って下さる方が増えるのを望むばかりです。
例えば天ぷらつゆや蕎麦つゆは、【出汁4・味醂1・濃口醤油1】これは全国共通ですが、これをそのままの配合で使用するのは少し淋しい事でもあると思います。この割合はあくまでも基本であって、絶対というものでは決してありません。醤油を淡口と濃口で割るとか、酒や旨味塩を少量加えてみるとか、いかようにも変えてかまいません。
ですので、ここで取り上げる合わせ調味料の配合も、基本をおさえつつ、出来るだけ幅をもたせる様にしました。基本を外さなければ、自分だけの【あたり】を見つけるのも、さして難しい事ではありません。