包丁の硬度とは

  

包丁の硬さと切れの関係

硬い包丁はよく切れます。

鋭利な刃がつくからですね。

柔らかな刃の方が鋭くなりやすいと考えがちで、実際に研げば簡単に刃が出るのは柔い包丁の方です。が、その「刃」が問題。



顕微鏡で拡大すればノコギリ刃の形、雑な甘い刃先になっていて不安定です。研ぐとすぐに裏側にバリが大きく出る安物の包丁がその典型でして、そんな刃は数十回まな板を噛むと消えてどっかへ行ってしまいます。即ナマクラに。

硬い鋼材は拡大に耐える緻密な刃をしてます。キメが非常に細かくなっているんですね、先の先まで。

硬さはどうやって分かるの

ナイフや包丁の硬さを示すのにHRCがよく使われます。これは「ロックウェル硬度」あるいは「ロックウェル硬さ」の事です。

記号はHRですが、スケールによってHRAかHRCと表記され、
計算式はこうなります。   HR=a-b.h

刃物類は0~70までの数値で表すHRCを使ってます。
試験方法はダイヤモンド円錐や鋼球なんかの圧子を使い荷重をかける方法みたいですね。最高が70で、一般的な刃物鋼の硬さは60前後です。

しかし硬さの測定手段はロックウェル硬度だけではなく、ビッカース硬さ、ブリネル硬さ、ショア硬さなど他にも色々あります。

ロックウェルの試験方法ではおそらく表面の硬さしか分からず、内部の硬度は正確には分からないだろうと思います。分かりやすく書きますと、HRC63の包丁を買っても、「新品」のうちはその硬度であっても、使い込むと(表面を研ぎ込むと)、回ってくる内部はHRC63ではないかもって事です。

だからこそ「砥石のり」が良くなって研ぎやすくなる。
いつまでも新品の外殻では砥石をはじいて研げたもんじゃありません。

硬さといえば日立金属の3C-20Cr系刃物鋼、「ZDP189」がうかびます。粉末冶金法ですが極細微粒子のみで造られた鋼材で普通の粉末鋼とは一味違います。はっきり言って超硬い。新世代マテリアルですな。誕生したのは21世紀になってからですんで。

特殊ステンレス鋼とされますけども、「ステンレスに近い鋼材」と考えるべきもので、カーボン比率からしてこの鋼材は錆びます(クロムも多いので錆びにくいですが)。ZDP自体はステンレスなので、炭素鋼なのにステンレスという何とも奇妙な包丁になりますかね。

ZDP189の包丁もボチボチ出回ってきてるようで、最近包丁投票にも書き込みがありました。実際に使っている人も増えてきたみたいですな。おいらも酔心さんが手がけたZDP189があれば1本欲しいんですがね。

このZDP189で包丁を作りますと、「HRC-67」の包丁が出来ます。
最高68までいけるでしょう。「68」!
この数字だけでどんだけ凄まじい切れ味か容易に想像がつきます。

もちろん一般的な「白二鋼」でも67は出ますがやりません。というか安定しませんな。安定させ得るのがZDP189だと言い換えてもいい。

しかし硬度が高ければ良いかと言えばそれは断言できない。刃物をHRC-70に近づければ「刃欠け」、「刃折れ」が待ってます。粘性、つまり粘りの問題が出てきます。

元々ステン系の鋼材は粘性に優れ反面硬度が劣る物。粉末治金はその問題をあるていど解決してくれるし、新鋼材は従来の粘性に硬度も高める目的でカーボン比率をあげてます。

硬粘、極微細粒子のZDP189ならばある程度は叩き込んで鍛えた炭素鋼と遜色はないでしょう。それにしてもHRC-67はちょっと考えてしまう。切れるのは切れるでしょうけども、どのくらい実用性があるのか。

包丁にどのくらいの硬さを残して仕上げるかは包丁屋さんの考え方次第、職人の腕次第になってきますが、概ねHRC63くらいが良いと考える職人が多いみたいです。ZDP189でもHRC63あたりに仕上がればいい感じになるでしょう。

これは66仕上げです。

マイナス1はギリギリの配慮でしょう実用として。
狂った様に切れます(笑)けども、いつ折れるやら^^;
落としたらオワリでしょうね。

ちなみにこの系統(粉末特殊鋼)にはやはり天然砥石は合わず、シャプトンの刃の黒幕シリーズが良い感じです。


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