鯉のサバキと鯉料理
鯉コクと鯉の洗い。この両方に対応できる二種の鯉さばきを紹介致します。
食用にはマゴイの二年もの、700グラムから1キロくらいの活物を使用する事が多いです。コイは死ぬと臭みが出て食べれませんので、生きたものを使い、手早く捌くのが大切。
料理する前に一晩綺麗な水で泳がせて泥を吐かせておいた方がよいでしょう。鯉は泥や砂ごと餌を食べます。また胃と腸の別がありません。そのため養殖場では1時間毎に餌を与えます。
コイ(マゴイ)とは食用に複合交配された種で、体色は茶色、黄金色、黒色があり、体高があるヤマトが主で別名にヤマトの他ジゴイという呼び方もあります。
観賞用のニシキゴイやウロコの少ないカガミゴイは別。コイ科の魚は他にフナ、モロコ、ウグイ、ハス、オイカワ、タナゴ、モツゴなど色々いますが、フナとの区別はコイだけにある2対(4本)の「口ひげ」で簡単です。
鯉のさばき方
活鯉は濡れ布巾で目を覆ってやるとおとなしくなりますので、出刃包丁の背で眉間を叩き失神させてから捌きます。
手早さが必要なのでウロコを引かないで卸すのが普通です。
(鯉コクでもウロコ付きでやる地方がある)
(料理によってはすき引きでウロコを引く場合もあります。下記)
さばく際に苦玉(胆嚢)を潰さない様に注意が必要です。
潰すと身が緑色に染まり、苦くなります。
それだけではなく胆嚢には毒性物質がありますので、間違っても食べてはいけません。
(スルフェノール・5-αチブリノール。重篤な症状を起こす事があります。毒は薬、これから作る生薬もあります)
(1)鯉のしめ方
布巾で目隠しと言いましてもやはり暴れますので、あまり意味はありません。
下の様に持って押さえて下さい。動物は皆同じで「首根っこを押さえる」ですね。
まず眉間のこの部分を狙って出刃の背を打ちつけます。
(2)鯉の三枚おろし
①ウロコ付きでおろす
ウロコを引かずに尾の方から庖丁を入れ、
肛門付近まで切ります。
ここで庖丁をいったん抜きましょう。
そしてもう一度入れて切っ先が中骨に当たる箇所で止めます。
(そのまま止めずに流す場合は庖丁を手前に引く)
ここから中骨に庖丁の先を当てたまま背側を切り進めて下さい。
頭の付け根まで切ったら、ヒレ下を直線に切ります
頭を落とし内臓を出しましょう。
苦玉は腹ヒレと鰓下(頭の付け根)の中間あたりにありますので、潰さない様に。
身側を下にして中骨を切り取ります。
背開きになった鯉のガンバラを左右からすき切る。
これで三枚になりました。皮を引いて使います。
②ウロコを引いておろす
尾から頭側に向けて柳刃庖丁ですき引きします。
(身を傷つけず引くのは要修練。難しかったらウロコ引きを使ってかまいません)
ウロコは捨てずに後で肴にします。
(揚げたり干したり)
胸鰭の付け根あたりから直線に頭を切り落とします。
ワタを出して洗い、通常の三枚おろしで卸します。
※その他の料理などで普通の三枚おろしにする場合は、苦玉を出してから内臓を抜き、そのまま通常に卸して下さい。庖丁が頭から尾に向かうおろし方が良いです
旨煮や甘露煮や揚げて餡かけ等の料理もあります。代表料理は【洗い】【鯉コク】【甘露煮】中華の【丸揚げ】と言えるでしょう。
刺身にする場合は洗いにします。
寄生虫(有棘顎口虫・吸虫類)の心配がありますので、野生のコイは生食に問題がある事を憶えておいて下さい(淡水魚は概ねそうです)。酢味噌や梅醤油などで頂きます。
(3)鯉の筒切り
鯉コクにする場合は鱗をすき引き状態にした後、筒に切ってしまいます。
苦玉は頭側から約3センチ下にあります(指先)ので、そこを避けて5切れくらいに切れば結構です。
苦玉のある切り身からは苦玉ごと内臓を取り去ります。
粘膜には臭み、内臓には寄生虫のリスク。
腹の中はキレイに洗いましょう。
鯉コクの作り方
鯉濃(こいこく)
まず「コイコク」という名称ですが、これは正式には鯉濃漿(こいこくしょう)と言いましてそれが詰って鯉濃になっています。
濃漿とは味噌仕立ての汁の事で、臭みの強い魚や肉を煮込む料理で、主に関東山間部でこの料理は盛んだった様です。江戸人も好んだようですね。
今は殆ど廃れてしまい、現在まで残っている濃漿は鯉コクくらいになりました。(廃れたと言っても現在は「あら汁」の他、味噌仕立ての肉類の汁物がそれに類似しますので、呼び方が異なってきたとも言えるでしょうが)
鯉濃 手順
頭を入れると出汁が出ます。
→頭の割り方
筒に切った身を一度弱霜にします。湯にくぐらせるか、ザルに置いた身に湯をかけます。
鍋に水、酒、味噌、砂糖(無しでもよい)を入れて
煮立ったところで切り身を入れ、
再度沸いたら弱火にして小一時間煮ます。アクを丁寧にとって下さい。好みの野菜を入れてもいいです。
(このやり方は人によって違います、自分は酒だけで煮て砂糖は入れず酒と味噌で調整します。味噌は小分けして加え、溜りも加えます。上記は一般的な仕方だと思ってください)
煮出し汁に旨味が溶け出し、脂の混ざった濃厚な色になった頃合いに味噌を加えます。
味噌を加えた後は沸かさないように注意。
薬味も好みで結構です。食べる直前熱々の汁に乗せましょう。鯉コクに使う味噌は基本的には赤味噌ですが好みでもかまいません。
煮込み方にも色々違いはあるようですが、濃漿は材料から旨みを引き出すのがポイントになりますので、酒水で数時間煮込んでから、たっぷりとエキスを煮汁に溶けこませ、それから少々薄めの味噌仕立てにしてさらに30分程煮こむのがベストだと思います。
苦玉以外の内蔵は付けたまま、ウロコも付けたまま煮込んでけっこうです。が、食べ慣れない人向けですと、ウロコも内蔵も取り去って煮込んだほうが食べやすいです。
ツマはゴボウや大根など根菜が良いと思います。
口にはネギや三つ葉など。定番は「粉山椒」という事になっています。
鯉の洗い
洗いは65度くらいの湯を使います。
刺身をさっと湯洗いして冷水にとります。
水気を拭き、酢味噌や梅しょう油で頂きます。
→魚の洗い
骨切り
鯉の身には骨抜きでは抜けない細かい骨があります。
骨切りしてから使うといいでしょう。鱧の骨切りほど間隔を狭くする必要はありません。アイナメ程度でいいです。
五月の鯉の吹流し、子供の成長を願う鯉のぼりもあるし、縁起が良いので昔から絵画の題材にされる事が多いですよね。変わったところでは山陽のある地方で好きな人に想いを伝える料理とされます。バレンタインのチョコですな。鯉は男らしさの象徴でもあるとされますので、そこからでしょうかね。
兎も角、海の王様眞鯛に対して川の王とされる鯉は、日本人に馴染み深い魚なのです。原産は中央アジアや中国とされますが、最近の研究で日本固有種もいたことが確実になっているようです。また自然環境保全の面からは鯉の放流はマイナス面が多く環境破壊になっているそうです。