数の子作り
数の子の下ごしらえと調理法を紹介します。
下ごしらえは塩抜き、薄皮剥き。調理は冷ました煮汁に漬け込むだけで、時間は少々掛かりますが、数の子の調理はいたって簡単です。
カズノコの親の【にしん(鰊・鯡)】は知らなくても、その卵の数の子はなじみの深いもの。決して味わい深い食べ物じゃありませんが寿司屋を始め、よく目にします。
ニシン
ニシンの卵(生の数の子)
魚の切り方
名前の由来なんですが、ニシンは古い言葉では「カド」って呼んでいたそうでして、それがいつしか「カズ」に訛って、「ええい、縁起をかついで数の子でいいや」って感じで命名されたらしい。(今でも北海道や東北ではニシンをカドと呼び、その卵であるカズノコをカドッコ言います。これがカズノコに変じたのでしょう)
数の子は卵粒の多さからの当て字で、「子沢山」「子孫繁栄」への祈願を込めて縁起を担いだのでしょうね。縁起物で保存食でもありますんで、当然正月料理にも使われます。
カズノコの見分け方は、「厚みがあるもの」「壊れていないもの」「粒が均一で揃っているもの」「大きいもの」つまり魚卵として成熟している物が良質です。反対に色がふやけたように白っぽいものや小さすぎるものは良くありません。
ちなみに、回転寿司でお目にかかる数の子っぽいモンは、カラフトシシャモなどの卵を加工再形成したやつで数の子ではありません(ゴールデンキャビアやトビッコ)。粒が小さすぎ、形が整いすぎ、色が鮮やかすぎ、などで判別がつきます。
彩り的にも良い物ですので、板前も料理に好んで使います。
では、まず塩抜きと皮の剥き方から説明します。
数の子の作り方
数の子は独特のえぐみ(渋み)があります。それに塩蔵品なので塩も抜かないといけません。また、数の子自体にはまったく味がありませんので、カツオ節の旨味を移す必要があります。
ですから数の子作り(調理)のポイントは「戻し方」と「味付け」の二点になります。いかに渋みと塩分を抜いて(塩を抜きすぎないのも数の子戻しのポイントですが。塩気を抜き過ぎると不味くなるからです)、カツオの風味を付けるかですね。
(1)数の子の戻し方
① 流水で晒す
塩数の子を容器に入れ水道水をちょろちょろ流す
② 塩水につける
薄い塩水につけて戻す
③ 塩水に重曹を加えて戻す
塩水に重曹少々を加えると渋みが抜けやすい
①の利点は「早く戻せる」ことです。2~3時間で塩が抜けるので、時間がない場合などに やる方法です。しかし「崩れやすくなる」という欠点があります。
通常は②か③の方法で戻します。約一晩かかりますが、その間に最低3回はつけ水を作り直してください。そうしないと数の子の渋みが残ってしまいます。
①~③どちらのケースでも、出来上がりは数の子の端を折って味見してから決めます。少しだけ塩気が残っているくらいが丁度良いですね。
(2)数の子の皮を剥く
数の子の薄皮は食べられないことはないのですが、皮が付いていると食感や見た目が台無しになります。丁寧に剥いておきましょう。
数時間から半日くらい塩抜きした数の子の味を見て、少し塩加減が残るくらいでエグミをそれほど感じなくっなったら塩抜きは終わりです。
真水に入れて皮を剥きましょう。指先で擦るようにして剥きます。
※力を入れると数の子が崩れます。指の腹を使って優しく。
※塩抜きする前に、筋に沿って横方面に軽くタワシで擦っておくと剥きやすくなります。
初めての方は数の子の薄皮(膜や筋)などの感じが分かりにくいと思います。動画もありますので、確認してみてください。
数の子の作り方【動画】→
(3)数の子の味付け
① 漬け汁を用意しておく
だし=10
みりん=3
しょう油=2
塩=少々
これくらいの割で調整してみてください。みりん・しょう油は数の子の量や自分の好みで変化させます。
漬け汁は一度煮立ててから冷ましておきます。
② 数の子を漬ける
皮を剥いた数の子を一度バットなどに入れた酒にさっと浸ける(酒洗い)
汁気をふき取る
数の子を容器に並べる
数の子の上にキッチンタオルをかけておく
容器に入れる前の漬け汁にカツオ節をひとつかみ加え、汁ごと上から掛ける
容器にフタをして冷蔵庫に
(4)数の子を切って盛る
一晩で漬かりますが、美味しいのは二日後から。食べる日に合わせて漬けておきましょう。漬け汁にはダシがありますし、生ものですから冷蔵保存は1週間くらいが限度です。カツオ節は二日目には取り出して汁だけにします(キッチンタオルごと取るだけですから簡単ですよ)。
にぎり寿司はそのまま使いますが、その他は適当にカットして盛り付けます。そぎ切りやぶつ切りが良いですね。
盛ってからカツオ節削りをのせましょう。
数の子の和え物・干し数の子など
定番に飽きた場合は、色々工夫してみるといいでしょう。
例えば『真砂和え』の応用。
真砂和えとは、ヒラメなどの白身魚を昆布じめにし、それを「ともあえ」ならば真子と和え、あるいはカラスミなどの「他人」と和える和食の先附です。 昆布締め→ ・戻した数の子を数時間~半日酒に浸けて渋味を抜く 煎酒や、淡口醤油・煮きり酒・隠し味醂(少量)などを加えてみても良いでしょう。「黄金和え」とでも申しましょうか、「ぽりぽりの食感」は失われてしまいますが、黄金色の縁起色とツブツブ感は残ります。 「形」に拘るのをやめれば、応用が広がるということですね。アイデア次第で何とどう和えようが、あなたのお好みですよ。 |
干し数の子
歴史的には干しカズノコの方が大変古く、塩カズノコが作られ始めたのは近代になってから。味の良さでは干しカズノコと言いますが、干し数の子は戻すのに大変な手間が掛かりますので、今では高級料亭など一部で使われるのみ。これは米のとぎ汁で戻したりします。
加工品の良し悪しを決めるのは、製造している会社の姿勢。 日本で圧倒的な信頼を集めるブランドは【ヤマニ】です。ヤマニとは、その昔ニシン漁で賑わった北海道の留萌市にある水産加工会社『井原水産』が製造する数の子のブランド。
便利な塩蔵品や味付け品が席巻しているので、年々まぼろしの様になって行くばかり。そのうち製造も中止になるのかも知れません。
※これは塩数の子ではなく、「干し数の子」です。
戻すと3~4倍になりますし、食感は格別ですが、濃い塩水で3日、そのあと真水でと、戻しに手間のかかる品物。米のとぎ汁を使う場合もあります。漂白もされてない昔ながらの乾物ですので、多少高価で面倒であっても、自分はこれが好きです。
同じ魚卵加工品であっても、イクラ、タラコ、カラスミなどと違い、数の子の場合は「味覚」というよりも「食感」がメインになります。歯ごたえ、それが骨伝導で聴覚まで楽しませる。
なので、「戻し方」に配慮したいもの。
流水にて数時間で戻せはしますが、じっくりと2日ほどかけて戻したほうが「侵食されいくい」ので歯ごたえが残るのです。真水で急激に戻すよりも、まず塩水(塩を追い出すための塩)でじっくり戻して仕上げに真水というやり方が「崩れ」を防止できるのです。
数の子と正月
数の子の箱が店頭に山積みになっている市場街やアメ横。昔から変わらぬ師走の風景ですなぁ。「もうすぐ正月。今年も終わりですか」と感じます。
数の子の知名度は高く、子供でも知っております。ですが、一般的な需要は年末に集中しており、普段の食卓ではあまり出ない食品。知名度の高さは、年中これを売っている寿司屋のおかげでありましょう。
我々和食屋としても、使用のピークは12月。祝膳に使ったりもしますが、やはりおせちがメイン。すし屋はまた違いますが。
数の子の親であるニシン(鰊)は、「カドイワシ」あるいは「カド」という別名があります。「カドの子」が転じて「かずのこ」と呼ばれるようになったというのが語源の定説になっています。
ひとつの腹に数えきれないほどの子供。こうした事から「数の子」の文字を当てたのでしょうかね。子孫繁栄、良いことが数えきれないくらい起きますように。そんな願いを込めた縁起良い食べ物です。
黒豆、田作り(または叩き牛房)を加えた3種が「祝い肴三種」として壱の重に盛られます。お屠蘇と祝い肴三種を前にして、ご家族の無病息災と、多幸な年であることを願いましょう。