板前の握り寿司とロボットの握り寿司

  

ロボット握りとの違い

今の寿司ロボットは事実上寿司形成作業に人手が必要ないレベルです。海苔巻きロボットもあるし、握り寿司はサビまで付けて出てくる。あとはバイトがカットされたネタを乗せれば完成。最近は軍艦巻きの海苔まで巻いちゃう機械もある。シャリ炊きからここまで全自動って按配です。これじゃ職人はいらないし、事実寿司職人をおいてないチェーンもある。



これについちゃ「時代の流れだから仕方ない」って考えるしかないでしょうな。アメリカじゃ、もう日本人がいっさいタッチしてないところでsushiが一人歩きしてる時代だもの。フレンチや中華が日本でどうなってるかを考えれば、危惧するのは的外れって事でしょうね。フランス料理店にフランス人が居る必要ないのと同じこってす。sushiシェフってのは日本人じゃなくなっていくってことですなぁ。

昔は見習いで寿司修行に入ったら、数年は握りなんぞやらしてもらえないもんでしたが、それを機械がやっちまうんですね。

ところが、ロボットには出来ない事がありまして、それは、「本物の握り寿司」は作れないってことです。ロボットが握る寿司、あのシャリダマは「おにぎり」であって、握り寿司じゃありません。これは昔かたぎの職人の迷信、とかで言ってるんじゃねぇんです、科学的な実験で何度も証明されてる事実ですわ。

「箸でつまんでも壊れない、なのに芯に空間がある」
これが本当の握り寿司です。

見習いの域の職人の寿司は箸ではつまめるが、30㎝上から落としても割れない、つまり「おにぎり」、中に空間が無い。数年修行したあんちゃん職人の寿司は、柔らか過ぎて箸で持つと壊れちゃう。一方で「寿司職人」と呼べる職人が握った寿司は、外殻はしっかりして一見固いが、中に空間があるので、口中ですぐにほぐれる。

握りはね、握るんじゃないんですよ、「包む」んです。
握るときに、シャリのお尻を親指で凹ませますが、これが握り寿司の秘密なんですよ。餡の代わりに「空気」を包むアンコロをイメージして下さい。「ゆるゆる優しく握って、パチンと締める」これが握りのコツです。このイメージを持てない職人は、何十年修行しても「寿司職人」にはなれません。

しかしまぁ、機械の進化の速度考えますと、【機械にゃ出来ない握り寿司】ってお題も、「今のところは」と言わざるをえんでしょうなぁ。

人が握る寿司の美味さの秘密は【たなごころ】にあるのかも知れません。
こちらの記事も御覧下さい 職人向きの掌

ちなみに「寿司」は当て字でして、鮨、鮓、の字が正当です。
しかし「すし」の語源自体が曖昧ですから、正当もなにもないと思いますけどね。鮨も鮓も、紀元前の中国が起源ですが、鮨(シ)のほうが古く、これは「魚の塩辛」。鮓(サ)は「なれずし」の原型で保存食。これは少しあとの漢の時代。これは何故か中世には中国からほとんど姿を消してしまいます。そのせいか、鮨と鮓は混同してしまっています。「すし」語源は、酸っぱいから「酸し」なんて江戸時代の文献にはあったりするようですが、寿司歴史学の大御所でもある吉野昇雄氏によれば、鮨と鮓を音読みにした「サシ」が転化したのではないかと、著書で書いておられます。なるほど、外来語をすぐに独自の言葉にしてしまう日本人の特性を考えれば、そのような気がします。