本焼を買う意味
板前修業5年目くらいで、その板の料理人人生は決まってしまいます。その時期にゃね、落ち着いて自分専用の包丁を選んで買えるからですよ。
良い包丁ってのは、下手糞な砥ぎ方しなけりゃ生涯持ちます。現役の板前人生を、その1本でしのげるんですよ。
つまりね、どんな包丁をその時期に選ぶかで板前人生も決まる。不思議なもので包丁に似合ったウデになるからですよ、板ってのは。
包丁に成長を引っ張られるんです。
包丁が語りかけるんですよ持ち主に
「オイラに似合った腕になってくれよ」ってね。
業界にいる人間は、板前の器量を包丁で推測できます。どんな板前かは、経歴よりも包丁のほうで一発で分かるんです。
いくらご立派な前歴であろうが、曲がった包丁じゃお里が知れる。本物の器量があれば、包丁も美しい。
心構えがある人間だから包丁も真っ直ぐなんです。使い込んで短くなっても形は崩れてません。
もちろん例外ってのはつきものです。
高価な本焼買っても飾り物にして使わない人、
次から次に新品買って、ろくに使わない人。(マニアですな)
逆に安い霞焼をきちんと手入れしてウデを上げる人。
良い包丁をサビだらけにして板前人生を棒に振る人。
そんな例外はあるにせよ、おいらは若い奴に言うんですよ。
「単車買う金があれば本焼買え」
確かにバイクの魅力ってのは、若い時期にはたまらないものがあります。おいら自身も乗ってました。
でも言うんですよ、
「新車買って、それに何年乗ってられる?10年は無理だろ。単車自体はもつにしても流行り廃りってもんもあるし。せいぜい数年くらいのもんだ。中型の新車一台の値段で総銀黒檀柄の本焼が買える。そんじょそこらの板前じゃ使えこなせない極上品だぜ。その包丁は一生涯使えるし、そいつに見合うウデになりゃハーレーだって簡単に買える様になる。それが先行投資って奴で、考えてみりゃ安い買い物なんだよ」
まぁ言う事ぁ聞きませんけどね(笑
その年頃では包丁なんぞよりバイクが重要だもの。
間違った事を言ってるんじゃないって確信はありますよ。
こいつとバイク比べてみて、どちらを選びますかって話です。
こいつに素直に引っ張れたら、まず料理長は間違いない
今はね、店置きの牛刀で仕事すりゃ充分って時代でして、包丁にこだわる板前が減ってきてます。極端な場合包丁を持ってない板前だっています。考えられませんけど、事実です。
そんな時代に本焼包丁の話しても煙たいだけかも知れません。比較してバイク選ぶ人間ばかりになったってわけでしょう。寂しいことです。
長々と偉そうなことを書いてきましたが、実は本題は下らない話なんですよ。今欲しくて困ってる包丁があるんです。欲しけりゃ買えばいいってもんですけども、そうはいかないから困る。
欲しいのは鮪切包丁で、水野鍛錬所が出してるAKITADA-SHINNOMINEシリーズ本焼鏡面仕上げの尺五。
でもまったく同じ奴をすでに持ってるんですよ、真之棟ではありませんが。
それにね、この包丁はあまり一般的じゃなく、使い道はマグロの上身(おろし身)/ブロックを切り分けるだけ。使い道はただそれだけ。ハモ骨切や鰻裂き包丁などと同じで限定使用品。そんなのを何本も持てば、先ほど書いた「例外」になる。
でもね、板前は別名「包丁人」って言うくらいだから、あるていど刃物マニアの血が流れてるもんなんですよ。根底には「日本刀」に対する憧憬があるんじゃないかな。
どうしたことか最近はとんと見かけませんが、子供は「刀ごっこ」「チャンバラ」して遊びますし、テレビや映画では時代劇のヒーローが刀を振るのを見る。そうして育ってきた背景があるわけです。
だからこの「鮪切包丁」に魅了させられるのかも知れません。
使いやすさや実用性は最初の柳刃が上ですから、普通はみんな柳を使うんですがね、この鮪切を柳代わりに使う板前も少しですがいるんです。それを使う理由は「魅了」以外ないでしょうな。
う~ん、どうしましょうかね。迷いますなこりゃ
う~ん、美しい(くどくてスンマセン(笑)
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