海苔のイイ話
海苔は日本人の食卓の風物。これがないと、どうも「和食」って雰囲気がありませんよね。
海苔の旬は冬から春にかけての寒い季節。生のノリのほとんどはそうですね。海藻ですから種類が多く、例外もありますけど。
乾燥板海苔
海苔は古代から盛んに使われていた様子ですが、養殖技術が確立したのは江戸時代。 ノリは鹿角菜やテングサなど他の海藻を含めた総称で、接着の用途にも使われたらしく、それゆえ『糊』の語源は海苔だとされています。しかし現在ノリと言えばシート状に形成された板ノリを指すのもまた確か。
海苔と言えば自動的に乾燥板海苔という具合になっています。その板ノリも、香りを出すために焼くことが多いですから、今では焼いてある「焼き海苔」が主流になっていて、そのまま使えるようになってます。この焼き海苔と、老舗の山本海苔店が創案した「味つけ海苔」の2種が、海苔のシェアのほとんどを占めています。
海苔には青のり、スサビノリ、アオサなんかもありまして、アオノリは香りも良く、アサクサノリの代用品として、「すき青海苔」に加工されますし、乾燥粉末は香りが良い良品です。アオサは奄美や沖縄でよく採れ、粉末の「青粉」に加工されます。
我々が日常食します海苔は、乾燥の板ノリが多くなります。生のノリは鮮度維持が難しく、海が近くにある方々以外はなかなかね。冷凍や加工などで内陸部や都会にも出まわりますが、新鮮さは望むべくもない。
そういうこともありまして、湿気ること以外は心配のない乾燥板海苔が主流になってますが、食べやすさ扱いやすさでも板海苔が優れているからでしょう。オニギリや寿司には必ず使われているわけで、考えてみますと、最も目にする食品のひとつだと言えましょう。
当たり前のように一年中店にある板海苔。実はこれにも「旬」があります。新物は11月の後半から1月頃まで。やはり出来立ての新海苔は香りが良いのですよ。
毎日のように目にする乾板海苔ですが、これが何のノリから加工されているのかを知っておられる方はもう少ないのではないでしょうか。と、言いましても、昔の人だって正確に知っていた訳ではなく、アサクサノリという海藻から作った「浅草のり」という程度の認識だったと思います。これは正解でもありますが、不正解でもあります。
現在売られている板ノリの原料は、大半が「すさびのり」で、「あおのり」「うっぷるいのり」が僅かに続くのみ。アサクサノリは一般的な店では売られていません。
ようするに、日本人が大量消費している海苔は、「ノリ」ではあっても「浅草海苔」ではないのです。普通に『海苔』として認識している方が正しいのですよ。
寿司海苔
乾燥板海苔の規格・寿司用の海苔
海苔は品質ごとに等級が細かく定められておりまして、品質等級では優等~七等まで9段階。それはさらに検査格付けされて上~規格外まで15種に分けられます。
これらの中で上位の海苔は『寿司用海苔』に使われます。
海苔のサイズには規格があり、全型が〔縦21cm 横19cm〕になっておりますが、これが寿司に向いたサイズなのです。
この全型を10帖(じょう)〈1帖は10枚〉にまとめ、これを36把入れたものが『海苔の箱』でして、1箱に3600枚入っております。
細巻きサイズの海苔は大体100mm×180mmで、これは丁度全型ノリを半分にカットしたくらいになります。
この細巻き海苔を170mmくらいに揃え、それを三等分に切ったものが「ぐんかん海苔」です。余った10mm幅くらいの小さな海苔は「玉子バンド」、略して「ぎょくバン」と呼んだりしています。玉子の握りを巻いてある海苔ですね。
軍艦巻き 作り方
しかし寿司用ノリといっても太巻き用の縦横22㎝サイズの大判があったりしますし、また、寸足らずにもなったりする物もあり、規格から外れるものが出てきます。これらを【寿司ハネ】と言いまして、品質は寿司用の高級品だが、サイズなど格付けの段階ではねられてしまったノリだという訳です。
★海苔には裏表がありまして、ザラザラした面とツルツルして光沢がある面があります。料理人にどちらが表か訊ねますと、間違いなくツルツルした面が表だと答えるでしょう。おいらも寿司を握ってた頃は、そう思ってました。ところが九州に出掛けた折に海苔の生産地を見学し、お話を伺いますとね、逆なんですな。ザラザラした面が表になるんだそうですわ。目から鱗でした。それでも料理においてはやはりツルツル面が表ですが。
★海苔を焼くとき板前は二枚同時にうちわで扇ぐ様にしながら焼きます。焦がさず香り良く焼くためですね。(巻き寿司に使う板海苔は「関東では焼きのり」「関西では焼かない」ということが多いですが、今は全国的に焼き海苔が多くなりました)
★和食で磯とか磯部というのは海苔を使った料理、あるいは海苔そのものを指します。
アサクサノリ
海苔の代名詞になってますのが、アサクサノリ。これは商品名ではなく、海苔という海藻の品種名です。
※【浅草海苔】はアマノリの仲間を板状に乾燥させたノリの製品名
【浅草海苔】は隅田川下流域の江戸前の海で採取されたアサクサノリを、浅草の紙抄き技術を使って板状に加工した干海苔の「製品名」です。ただし、それは遥か昔の話です。(名前の由来には他の説もあります)
現在の『干板海苔』は、ほぼ全てがスサビノリという品種から作られてます。
アサクサノリの野生種は絶滅状態で、厳密には、もうありません。では現在の浅草海苔は何かというと、養殖用に生み出されたハイブリッドです。
ところが元々が弱い種ですので、養殖に成功し多少病気に強くなったものの、これも非常に弱く、養殖するのは並大抵の苦労ではありません。極端に生産量が少なく、超高級品になっています。
アサクサノリの同属になる「あまのり」の仲間から2種を栽培用に改良し、アサクサノリの代替として、早くからスサビノリに切り替えていたのです。
アサクサノリの名は、浅草名産「浅草紙」の作り方からの由来だとか諸説ありますが、もともと浅草で作られていたのは間違いありません。学名を付けたのはスェーデンの人で、それ以降標準和名も『アサクサノリ』になったと云います。
現在の浅草海苔は、「オオバアサクサノリ」「ナラワスサビノリ」が原料。これも栽培が困難になり、アオノリ系やスサビノリとさらに混合させて加工。それさえも消えつつあり、浅草海苔の表示を見かけることも少なくなって来ました。(木更津の干潟で、アサクサノリの復活が試みられています)
※すでに1960年頃には、今の「吉野葛」と似たような状況になっていた。つまり「名前だけが残って、本体の方は消滅寸前」という、よくあるパターンです。
1970年頃からアサクサノリの系統株の種苗が本格化し、オオバアサクサノリとナラワスサビノリが栽培用に選抜され、比較的栽培しやすいナラワスサビノリが主流となって今日に至ります。その間に野生のアサクサノリは日本沿岸の荒廃によってほぼ絶滅しました。
理解の仕方としては、
【浅草海苔はアマノリの仲間から作られる乾燥海苔の製品名】
これでいいんじゃないでしょうか。
湿気た海苔を復活させて料理にする方法
海苔が余ったりして使い切れない。特に味付けでない方は、使い道がなくほったらかし状態。そういう事はないでしょうか?
和食屋も、新物に切り替える時期は在庫一掃をすることがあります。余計な在庫を抱えないやり方をしてますから、量は知れてますが。
そういう場合は佃煮にするのが一番ですね。これは、焼いてあろうがなかろうが同じように作れますし、味付けであれば調味なしで作ればいいだけで簡単。保存が効きますし、食卓に出しておけば誰もが箸をだすので売り切れるのは確実でしょう。
余った海苔を揚物料理にする
別のやり方はないか?
たとえば「から揚げ」とかはどうでしょう。
磯辺揚げなど海苔を使う様々な揚げ物がありますので、油との相性は悪くない。だが、これを単体で揚げてしまうとシワシワになるのがオチ。
そこで、揚げる前に何日か放置して乾燥させます。
「なんで?」と思うでしょうね。
もともと干し物であり、湿気を嫌うから密閉保管している食品。
「それを外に出して放置すれば、湿気るだけではないか」
そりゃそうです。しかし密閉して乾燥剤と一緒にしておけばパリパリのまま。それじゃどうしても単体での揚げ物にはならない。揚げるとすれば衣が必要で、天ぷらは兎も角「から揚げ」は難しい。
だから外に出しておきます。そのままどんどん湿気っていくわけじゃありませんのでね。ある程度まで湿気ったら、ストップするんですな。その段階から次の乾燥を進めるわけで、だから日数が必要。
放り出すと言ってもそんまま外に出しておけばシワシワ、ガチガチになり、その姿は「ネジ」のような有様に。なので、シワが寄らないように少しだけ気を使い(ここがちょっとだけ微妙で、ラップしたりとか蒸し器の上に置いたりとか)(わかりやすく言うとスチームアイロン)、あとは何日か放ったらかし。あらかじめ食べやすいサイズに切りそろえておいた方が良いです。
これをそのまま160度くらいの油に入れて素揚げにします。お好みのタレをかけて食卓へ。たとえば甘辛のみりん醤油味に胡麻油を少々加えたタレとか。
シワシワにはならないし、一風変わった酒の肴になります。けっこうボリュームがあるので、ごはんのおかずとしても良いでしょう。
ノリの種類
ノリという呼び方は「糊」にちなむもので、昔は粘りのあるものを「のり」と呼んでいたそうです。実際に食用だけではなく、糊料としても使われていたノリもあると云います
食用にする海藻としてのノリはだいたい以下のように分類できます。もちろん細々とした多様な品種がありますが、それは図鑑の領分。
アサクサノリ系
先に書きましたように「アサクサノリ」そのものは、ほぼ絶滅。その代用として使われているのが「スサビノリ」「ウップルイノリ」などのアマノリ属です。ウップルイノリは岩ノリの主要品種としても知られます。
テングサの仲間
「イギス」「テングサ」「スギノリ」「エゴノリ」など、主に寒天やカラギナンに加工するノリです。博多の名産「おきうと」はエゴやイギスを煮溶かして固めたものです。
オゴノリの仲間
「キリンサイ」「トサカノリ(青・赤・白)」「オゴノリ」「ムカデノリ」「ウミゾウメン」など、海藻サラダや刺身のつま、汁の実なんかに使うノリです。
淡水系のノリ
淡水が流入する場所で育つ「アオノリ」いわゆる「ノリの青粉」の原料になり、板海苔に加工されたり混ぜ込まれたりするほか、生でも流通し、西日本や沖縄では色々な汁物に利用されます。
※仲間の「アオサ」がもっぱら青粉に加工されています。ちなみに沖縄で言う「アーサー」はアオサだと思いがちなんですが、実はアオサではなく、よく佃煮の原料にされている「ヒトエグサ」です。
「カワノリ」は完全に淡水産で河川で採れるノリ。この種のノリでは「水前寺海苔」なども知られます。
・その他「海ブドウ」もノリの仲間になります
海苔の産地
海苔産地として有名なのを挙げますと
九州各地、三河、三重、瀬戸内海の他
兵庫、【和歌山の青のり】
千葉の【はばのり】
北海道の【えぞのり】
島根の【十六島(うっぷるい)のり】
新潟の【海府のり】
※九州では佐賀県の海苔が評価が高い
淡水産の海苔は
刺身の「つま」によく使います【水前寺のり】
静岡の【芝川のり】
京都は【桂川のり】【鴨川のり】
日光の【大谷川のり】
海苔の栄養
海苔は必要とされるミネラルとビタミンの、ほぼ全てを含んでいます。しかも、微量ではなく、大量に含んでいます。
ビタミンもアミノ酸やミネラルなども非常に豊富で特にタウリンやポルフィランなどの多さが目を引きます。海のエキスの凝縮した食べ物だと言えるでしょう。それゆえノリは環境に敏感なんですが。
ビタミンAなどはウナギの3倍、ビタミンCはホウレン草の2倍、B2は卵の7倍という感じで、優れた緑黄色野菜すらしのぐビタミン源。B1、B12も含めて他の食材と比べると非常に高率なのですよ。ミネラルは海水中に存在する全てのミネラルを吸収して蓄えています。
EPA、食物繊維、加えて「海の大豆」とさえ言えるたんぱく質。リジン以外の必須アミノ酸全部を大量に含んでいるのです。
海苔独特の旨味は、主に遊離アミノ酸であるグルタミン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、タウリンなどによるものですが、これらは「機能性成分」として知られる物質でもあります。特にタウリンを大量に含んでいます。
加えて海苔の細胞にある多糖類のポルフィランも注目成分。抗癌作用があり、血圧の正常化に良いとされるものです。
海苔の業界団体のサイトにはこう書かれています。
ビタミンとの相乗効果が高いと思われる
ノリは低カロリーのダイエット食品であり、結果として肥満防止に役立つこと、食物繊維の働きで食物の腸内通過時間を短縮するため、余分な体内吸収を軽減し、これが血中コレステロール・脂質低下作用となり、動脈硬化の予防、肥満防止となること、また必要な全てのビタミン群と全てのミネラルを含むため、健康の維持、増進に役立つ
ある冊子から
1.ガンの元凶"活性酸素"をやっつける
2.ヌルヌル成分でガン防止
3.ダイエットに一番
4.動脈硬化を防止する
5.海苔で老化を防ぐ
6.免疫力を高める
7.子供の成長を助ける
8.酒の友に最適
マウスを用いた実験で100%胃潰瘍を防ぐ結果を得た
ノリの細胞にあるフォルフィオシンによるもの
ノリを煎じて飲んだ場合でも胃潰瘍,痔疾、血圧等に効果が認められた
全国海苔貝類漁業協同組合連合会www.zennori.or.jp/chisiki3.html
こうして並べてみますと、「あの海苔がねぇ」と、ちょっとした驚きですが、もともと海藻や海草が優れた健康食品であることはよく知られていますです。こうした何気ない日常的な食べ物が日本人の長寿を支えてきたのでしょう。
「今までは」って感じですどね。今問われているのは、いかに「素朴・シンプル」にできるかではないでしょうか。最近になって再び頭をもたげるのは、「素朴さ」と「単純さ」への飢えだったりします。