【駄目包丁とは】 なぜ包丁が歪むのか

  

歪んだダメ包丁

この包丁は、峰幅から察するに元は尺二寸の本焼包丁。

悪くない包丁だったはずですが、今やみるかげすらなし。



最低ですな。手入れもまったくなってないし研ぎ方を知らない。ただの一目で「切れない」とわかる包丁です。なぜ良い包丁を入手しておきながら、こうなるのか。

詳細は当然ながら書けませんが、持ち主は高齢の寿司職人で、東京のど真ん中で数十年寿司を握っておった板前です。一言でいえば「浮かれていた」とおいらは思います。

次の包丁に行きましょう。

これは一見したところまともに手入れしてるように見えます。が、これもまったくダメ包丁ですな。

こうやって見ると刃線が凹んでるのが分かりましょう。

とても「まともな職人」とは言えない。板前としての能力も評価できるレベルになる事はありません。

次は正本総本店が出てきました。

これの持ち主は何で板前になったんだかよくわかりませんや。

この長さを残して「まったく使い物にならない包丁」にしている。包丁ってのは「鶴の首」ではありません。

これはパッと見真っ直ぐ研いでいるように見えるがやはり鶴首。

切っ先の研ぎ方を知らないからこうなります。

次の二本も最低。

しのぎ筋をまったく考慮せずに包丁を研ぐからこうなる。

包丁をダメにする本当の理由

なんで真っ直ぐ研ぐことができないんでしょうか。
これはね、テクニックではないんですよ。
研ぎ方の上手い下手ではありません。

どの親方に聞いてもらっても結構ですがね、
「包丁をまともに研げない板前で仕事のできる奴はいない」
そう言うはずです。

仕事に対しての「集中力」をもってる奴は包丁を真っ直ぐ研ぎます。

要領だけ良く、怠けるのが上手で、口は達者。

こういう野郎が増えましたし、こんなのがチーフになったりもします。

だが間違っても「料理長」になる事はまずありません。なれません。
(少なくともマトモな店ではそうです)

この種の板前が包丁を研ぐと、上の様な有様になるんですよ。

言葉でいえば【姿勢】という事ですが、分かりよくしますとね、「何事もなめている」んですな。

「楽した方が得」としか考えられない小さな人間です。

こういう人間は「根をつめる」という事が出来ません。

なので、「なんで板前になったのか分からない」のです。

料理というのは「煮詰め」なきゃ出来はしないんですからね。カップ麺でもいいやという適当さなら、この仕事をやる必要はない。

分岐線の向こう側、そしてこちら側

人という奴はね、人間関係を築くにも、仕事のスキルを上達させるにも、いつだって自分の目の前に「線」があります。

「出来ない自分」は線の内側に、「出来る自分」は線の外側に居ます。その「境界線」は必ずあるし、なければ自分で線を引かなきゃいけません。

「線」すら意識出来ない人間には「何も無い」んですよ。苦労もないかわりに上達も無い。

その境界線を乗り越えるために人は努力する。

一本の線を越えたら、また次なる線が現れる。

現れなければ自分で引く。

その線があるからこそ、生きてる実感が味わえるんです。そこに線があればこそ、人は背筋を伸ばして生きる気になる。

人生はさざれ石

「線を越えられない」
「線をどう引けばよいか分からない」

そういう人は、まず目の前に「一本の確かな真っ直ぐな線」を引けば良い。

それに集中する、それを越える事だけを考えるのです。

生まれたヒトは必ず死にます。
子供から花満開の青春を経て、やがて老いて最後は死ぬ。過ぎた日々は戻らないし、年齢が逆行することも絶対にない。

だからといって生きる事は決して無意味ではありません。

子供を残すのが第一義。だがそれだけではない。

何をもって自分の人生に意味を感じ有意義だと思えるのか。それはね、自分で引いた境界線を越え続けてこれたかどうかなんですよ。

線の強弱や高さは問題ではないのです。
絶えず次から次へと己の意志で線を引っ張る。
その線を越えて向こう側へ行く。

自分が越えて来た無数の線。
その一つ一つが「自分の人生だった」と言えましょう。

さざれ石(細石)というものがあります。

たんなる小石にすぎないものがやがて巨大な巌(岩塊)になったもの。長い時をかけ、石灰岩が雨水で溶けて乳状液となりそれが粘着剤となり少しずつ小石を凝結し、やがて岩塊となります。

我々の存在は小さく、ましてや日々の些事など山野の小石も同然。
己の意志で引いてきた日常の線などに存在感はないでしょう。

だが、蓄積すればどのようなものでもやがて塊になります

過去に累積した小さな線。
それがやがて巌(いわお)となります。

その巌こそ、あなた自身の姿に他ならない。

人生は短く儚い。
できるかぎり真っ直ぐな線を引きましょうや。
包丁のシノギ線のようにね。


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