太刀魚を捌く
タチウオは夏場が旬だとされてますが、年間を通じてそれ程味に変化のない魚です。
刀の抜き身みたいに白銀に輝く魚体からの名でしょうが、泳ぎ方が「タチ泳ぎ」だからって事もいわれます。別名がタチ、タチノウオ、サーベル、ハクナギ、ハクウオ、シラガ、クロヒゲ等であまりイメージから遠い名はありませんが秋田ではダツと呼ぶ事もあるので同名のダツと間違えない様に注意が必要。
鮮度の良し悪しは簡単に見分けられます。ウロコ代わりに体を包み込んでる銀粉、ここが本物の刀みたいにギラギラ輝きを放ってるヤツが新鮮です。
それでは太刀魚のさばき方を紹介いたしましょう。
太刀魚のさばき方
食べて美味しいのは1㎏を超える大ダチで、そのくらいだと脂も充分です。小型でも大型でもさばき方は皆同じです。
(1)水洗いして背びれを取る
頭を利用する場合はこうして歯を除いておきましょう。
カミソリの様な鋭い歯は危険でどうにもなりません。
頭は二つに割って料理に使えます。
腹を裂き、ワタを出して、水で洗います。
尾先は必要ありませんので落とします。
長い魚体のため、家庭のまな板ではさばき難くなりますので、ここで二つか三つに切り分けておいてもよいです。
(2)塩焼きやムニエル用に切る
太刀魚の筒切り
まずは中骨付きのままでムニエルや焼物などにする時のさばき方。
背ビレ付け根のヒレ骨は非常に鋭いので、外しましょう。
背ビレの両側から切り目を入れて外します。
切れ目を入れたあと、ヒレを庖丁で押さえてタチウオを引っ張ると外れます。
後は料理に合わせて適当なサイズにカットすればOKです。
タチウオのおろし方
刺身系のほか、骨なしの料理にしたい場合はこのおろし方をします。
三枚おろしにする
次は三枚におろして骨無し料理にしたり刺身などにする方法。この場合は三枚に卸しますので背ビレは最初から取る必要はありません。(三枚にすると鋭い背鰭は中骨に残るからです)
一気に大名おろしにします。
中骨は醤油、味醂、酒のタレに浸けてから片栗粉を打ち、カリカリに揚げて骨せんべいにすると酒肴に抜群ですよ。
料理目的に応じた扱いやすい長さにカットしましょう。
太刀魚の銀皮造り
タチは「皮の引けない魚」です。ですから刺身にする場合も皮つきで切ります。つまり【銀皮作り】ですね。
しかし皮はやはり皮です。刺身にすれば口に当たりますので、下の様に切りかけ切りで何本か切り目を入れておくとよいでしょう。
これを切りかけ切りといいます。
刺身の切り方・切りかけ作り→
もしくは焼き霜にして皮目を炙ります。
太刀魚の美味さ
ところで塩焼きの美味い魚ってのは、赤身だと、アジ、サバ、サンマを筆頭に枚挙にいとまがありませんし、川物でもアユや鮭鱒がありますけど、白身の魚は結構判定が難しいものです。真鯛の様な別格はありますけども、概して白身は繊細な風味を持っているからです。良い言い方をすれば、「上品な味」って事ですね。濃さが無いとも言えます。
例外として赤身と白身の曖昧な魚種もあり、カンパチ、ハマチ、シマアジ、サワラ等は身が白いんで、「白身」として扱われてますが、青魚でして、サバやアジの仲間です。関アジや関サバも同じく白身として扱われます。このへんの魚は、あるていど「主観」によって分類されるのもしょうがない面もあります。
曖昧さのない「白身の魚」で、飛び抜けて塩焼きが美味いってのがこのタチウオ。
漁獲量の少なさもあるのか、知名度は今ひとつですけども、洋食や中華のコックさんも好んで使いたがる魚で、つまりプロには抜群に受けの良いヤツなんですね。
生臭さがまったくないのに、食べた後まで記憶に残る深い旨味があるからです。要するに塩焼きだけじゃなく、あらゆる加熱調理に非常に向いている味です。
クセの無さは魚嫌いの子供でも平気で食えるほど。注意点は鋭い骨くらいのもんですが、これも丁寧に三枚におろして使えば問題ありません。
太刀魚が非常に美味しい魚なのは「脂肪量」が多い魚だからです。夏場が旬で脂肪が多い魚は鰻、鱧、穴子などですが、特徴は細長い魚だって事でして共通しています。貪欲なわりに狭い場所に住むせいか、運動量が少ないからでしょう。
普通の魚はたんぱく質のほうが多く低脂肪が特徴ですから珍しい部類ですね。他にはサンマくらいでしょうか、トロとかね。しかし脂肪太りでも魚の場合はまったく心配無用。
魚の脂肪酸は生活習慣病の予防に役立つ成分ばかりですし、高脂血症を予防するオレイン酸も、脳細胞や神経組織に好影響を与えるDHAも含みます。それに脂溶性のビタミン、A、D、Eも豊富で、これらのビタミンは健康維持に欠かせない物ばかりです。
塩焼きばかりか、料理は煮焼き揚げ炒め蒸し、それこそ和洋中をまったく選ばず、臭みの無い身はどう料理しても美味いです。フレンチの「タチウオのポワレ」なども有名なところ。マリネだろうが味噌漬けだろうがバターソテーだろうがお構いなしの「料理される為の身質」と言っても過言ではないでしょう。新鮮なものは刺身でも申し分なしです。
タチウオは北海道以南のほぼ全国に分布しており、旨い魚として古くから市場価値が高く特に西日本では惣菜魚として根強い人気を保っています。高級練り製品の原料にもなるし、銀色の色素(グアニン)から銀粉を作り、染料(模造真珠やマニキュアのラメに)などにもします。
有名な産地は瀬戸内でしたが、漁獲が減少し、九州が主産地になってる様です。相模湾でも良い物が獲れます。目の黄色い大きなタチがたまにありますけど、「オビレタチ」って近縁種で中国方面からの輸入物。味は劣ります。
九州には少し体色が黒っぽい個体もいますがこのタイプは味は変わらないです。味が変わるのは南洋で漁獲され輸入される大型のオビレダチ。尻尾が二叉してるのが特徴で目も黄色っぽい、これは水っぽい身質でタチウオよりも落ちますけども切り身になれば区別がつきません。 ですから平気で「タチウオ」の名で売られていたりします。