シャコ(蝦蛄)
シャコを寿司職人は「ガレージ」なんて呼びますが、こりゃ「車庫」からの駄ジャレ。「タコ」と聞き間違えないって意味もあります。
『蝦蛄』でシャコと読みます。
「しゃこえび」なんて言われますし、別名でガザエビ、カマキリエビなんてのもありますけど、海老とは別種です。
長崎あたりじゃシャッパ、沖縄ではパンチャー、香川でゼンノミ、神奈川でムキ、東京でシャク・シャクナゲ・ムキ、秋田でカサイビ、他の魚介も同じですけど地方で呼び方が色々です。
甘辛く煮たり、天ぷらの種にもしますけど、なんといっても寿司種として有名です。塩茹でしたものを握って、煮詰めをつけて食べるのが一般的。
ボイルして皮を剥いてから食べます。ワサビしょう油で刺身にもしますが、寿司ダネとしては「煮もの」のひとつですから、サビなしで「煮ツメ」を付けて握るのが普通です。最近は煮ツメはつけないでワサビで食べるお客さんが増えました。
活シャコのさばき方
●死んでるのを取り除いて、生きたシャコを一気に茹で上げます。
① たっぷりの湯を沸かし、ひとつかみの塩を入れた鍋で約10~15分。
② 浮いてくれば出来上がり。すぐにザルにあけて冷まします。
※冷水で急激に冷ますと少し水っぽくなりますし、自然に冷ますと皮が剥きにくくなります。状況に合わせて。
③ 冷めたら頭の付け根をハサミで切り落とし、次に尾をV字型に切り落とします。
④ 胴体の両脇も真っ直ぐ切り落とします。
⑤ 腹の方から皮を剥きます。頭側から剥く。
⑥ 次に背を剥きます。これは尾側から。
●これで食べれますが、すぐに食べない場合はここまでの状態にしてから水気を拭き取り、ラップ等で空気を遮断して冷凍しておきましょう。
シャコの握り方
腹側が丸く握り難いので、
軽く押し潰す様にするか、
画像のように切り目を入れて開く。
腹を開いたシャコ
こうすると握りやすく、仕上がりの形も良い
ツメを付け、
大きめのものは食べやすいように二等分に。
シャコの旬 その他
シャコの旬は夏場。5月から6月にかけて卵を抱き、子持ちになりますが、『子持ちしゃこ』はへたなエビより美味しいですね。この時期はオスも旨いですが。
この卵が「カツブシ」と呼ばれます。
鰹節のように美味しいという意味でしょう。
特徴としては、エビやカニ同様たいへん傷みやすい点。えび・かに・貝と同様「死んだものは捨てる」が基本です。
足が早いので、産地で浜茹でして剥いたものが多く出回っています。弱った生よりも、産地で茹でたものが新鮮で旨い事が多いのもエビ・カニと同じ。「浜ゆで」の表示がある品を選びましょう。
それと、シャコのツメ肉は大変美味しく通好みの逸品でして、小鉢にして付出しにしたり、握りにしたりします。
小さい爪を剥くのは大変な作業なので、産地で剥かれて爪だけにした物を使う事が多いですね。
女板前とシャコ
昔ちょいと教えた板前の様子を見に行きました。最近とんとご無沙汰しちまいまして、おいらの方から顔出すのはずいぶん久しぶりの事。これが女板前なんすよ。しかも寿司職人。
縁があって教える事になったのはいいんですが、「よろしくお願いします!」って威勢の良いのは好印象。けどこの娘、髪が金色。ライオンじゃあるめぇし。
「本気でつけ場に立つ気があんならなんとかしな」
(*〔つけ場〕 寿司カウンター内部。昔の寿司は漬けの仕事が主流だったことから)
そしたら翌日ね、坊主頭に近い短髪にしてきました。
それで暫らく面倒みたんですけど、その感想を言いますと。
「男と女の本質的な差はべつに無い」そう感じました。
大事なのは仕事に対する心構えであって、男か女かじゃありません。
ひとつだけあるとしたら、「好奇の視線」でしょうな。こんなある意味閉鎖的な板前稼業ですから、そこに艶姿が入るのはやっぱり特別な感じがします。で、周囲の好奇の目はしかたがありません。だから資質としては、それをはね返す太い根性が必要ですね、女の子の場合は。
寿司職人としてはどうか。
寿司好きの祖母が、生前よくこう言ってました、
「男前の板が握った鮨は、艶があっていっそう美味しいねぇ」
こりゃちょいと問題発言ですが、ある意味真実もついてます。おいらがガキの頃、触発された寿司板前も男前でした。
【華】のあるなしじゃ、あった方がいいですね。他人に観られる商売でもあるからです。
「掌が温い女が握ったすしは食えない」
なんてのは、馬鹿らしい戯言です。女職人さん達、頑張ってほしいですね。
この女板前が修業中、活きのシャコを初めて見て、「カマキリみたいですね。もう食べれませんよこんなの見たら」
そう気色悪がったのを思い出します。
「馬鹿野郎、寿司屋にゃつきもんなんだよ」
なんて笑いながら叱ったもんなんですが。
今年もシャコの季節が来ました。