築地の風
築地の鮨屋で一杯。お客もハネた時間を見計らって暖簾を分けたんですが、鮨板さんたちは相変わらず忙しないですなぁ。まぁ江戸前寿司そのものが「ゆったり落ち着いて」やる仕事ではないんですけどね、元々FAST FOODの走りですし。
人肌のぬる燗でチビリやりながら、顔見知りの腕の良い職人相手にクダをまいておりました。
「そこのサバと秋刀魚とイワシの尻尾、お前さんの事だから握んないわな。どうせハネて手屑になんだろ? そこにある火炎放射器で焼いて酢橘と塩で食わしてよ。手巻きでいいわ。」
そしたらね、黙ってても末広じゃなく管に巻いて出してくれました。
「管って言えば、こないだ飯屋で小鉢に筍の炊き寄せが出て来たんで驚きました。もう春かよってなもんで(笑)。そういえば魚さんのところで以前頂いた「管牛蒡」。あれ旨かったです。作り方教えて下さいよ。上手く芯が抜けないんですよ。」
「まぁ今は季節感なんぞ無いのよ(笑)。クダゴボウねぇ。お前さんも渋いね相変わらず。牛蒡の皮の旨さを食うのにゃあれが一番いいかもね。金串でしこしこやりゃ抜けるさ、ごろごろ板ずりして皮ほぐしてからな。」
「もう一本どうぞ。今度は造り醤油に浸けてから炙って七味をかけてあります。半大葉もかましてあります。シャリ小さめで。酒はもういいんですか?」
「ありがとう。これでオツモリにしとくよ。酒は二合までだ、旨いのは。」
築地は景気を反映してくれる街です。
表面は変わらず賑わっていますけど、よく見るとあるべきものが其処に無いって感じでどうも良くありません。昔に比べ魚も本当に少なくなりました。
移転も気になるとこですが、豊洲にゃ縁が無い予感がしますね自分は。多分あまり行かなくなってしまうでしょう、河岸そのものに。
移転した跡地に瀟洒な箱モンでも立てて、ますます機械的な街並みになるんでしょうおそらく。「きらめく銀座」って事でしょうな。でもね、「ヘソの抜けた町」になりますな。築地が無くなった東京は。
新市場を建てる移転先の土壌から、基準の4万3000倍の有害物質が出ようが、聴く耳は無いと思いますけどね、えらいさん達は。
魚だらけでも不思議に魚臭くない築地独特の風を嗅ぎながら、てくてくしていますってぇと、カツオさんが澄んだ目でコッチを見ています。目が逢ってしまいました(笑)
気仙沼。
触れてみますとどうやらケツの筋目も非常に良いので買うことにしました。
魚ってのは恋人に触れる以上に優しくタッチしなきゃいけませんが、鰹は特にそうですね。魚体に負荷のかかる持ち方は駄目で、それが出来ない人は持ち上げたりするのは厳禁です。
さて、景気がどうであろうと、あたし等は商売続けなきゃいけません。
飯食ってかなきゃならないですからね、みんな。
辛気臭ぇ時代に入っておりますけども、どんなお仕事なさってるにしろ、なんとか頑張って行きましょうや。