「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」
【自分を律する】
こう書けば容易に実行できそうな感じ。
でも、口で言うほど簡単じゃありませんよね。
人ってやつは感情の生き物なんで。
普段は冷静であれても、何かの加減で激してしまいます。
まあ、多くの場合酒が入った時にそうなりやすいもんです。
意志の力で押さえ込んでいた「ホンネ」が出てしまうからでしょう。
アルコールの作用か、「場の雰囲気」なのか。
感情の断片は普段は表面化せず心のどこかに積層しています。
上司や同僚との対立
仕事が雑な部下への憤り
取引先の人間への複雑な感情
恋人や友人、片思いの相手などとの「心のすれ違い」
すれ違いは「家族内」でもあるし、「お客さん」ともよくあること
多くの場合そのような事柄であり、それが断片化し精神内部に散らばっている。
散らばった断片は忘れ去り消え去るかといえば、そうではない。
降り積もり、地層のように積層していると考えられるでしょう。
なので人が激する場合の典型は【他人の悪口】
ま、人様のうわさ話が中心となるわけです。
最初は誰彼を褒めていたにしても、すぐに悪口になって行く。
「不平不満」は最高の肴ってわけですな。
これは実は「自分を」語りたいわけなんですが、
進んで自分の自慢をすれば場が白けるし、見苦しくなります。
したがって他人を引き合いに出し、間接的に「自分自慢」をしてるわけ。
つまり誰かの悪口は「自分をよく見せんが為」のウラ返しの代償行動。
「オレが・ボクは」
「ウチはさぁ・ワタシってね」
話の方向が結局はそこに流れるのですよ。
ま、例外はあまりないでしょう。
ヒトなら誰でもそうなります。
オイラこと「魚山人」も同じです。
なぜなら人間ってのは「他人に認めてもらいたい」動物だからです。
「アイツってほんっと~に、バカだよな」
それで話が盛り上がり、ストレス発散になっているのでしょう。
それはよい。
仕方のないことですからね。
だが、これは「諸刃の剣」だってことを知っておくべきです。
ストレス発散のはずの酒も、一定量を超えると逆に身体にストレスを加えます。悪酔いすれば真っ直ぐ歩けなくなり頭痛がし、最後は吐いてしまう。
吐瀉物の胃酸が混ざる甘酸っぱい悪臭を嗅ぎながら気分が良くなるわけはない。
他人の悪口も同様です。
笑い飛ばせる程度でやめておけばストレス解消になる。
だが続け過ぎると「自分の内部にあるドロドロ」を吐き出す結果となる。それは吐瀉物のように自分自身を汚し、臭くする。
そして「後悔」するハメになります。
「ちょっと言い過ぎた」「言わなきゃよかった」
そういう後悔をするという事は、あなたがまだ善人の心を持っている証拠。根っから歪んでいる人間はそういう後悔などしませんからね。
自分が言ったことを忘れ去る者もいて、こういうタイプとは交際しないが賢明。
ではどうすれば「後悔」しない様になれるのか。
自分を律する
そうなるわけです。
「自分をコントロールするなんて無理~」
まぁ、そう言わずに、ヘソに力を入れ背筋を伸ばてみて下さい。
ほんのちょっとしたことで自分を変えられるってのに気がつくでしょう。
「四次元的複眼」
「幽体離脱した自己との会話」
つまり、「もう一人の自分」による自分観察です。
分かりやすく言いますと、「じゃあ、自分はどうなんだ?」って視線のことです。
「このヒト」に自分を監視させておきますとね、
「口が滑って後で後悔する」って失敗が減っていくんですよ。
「このヒト(もう一人の自分)」が常に言の葉をジャッジメントしてくれる。口から出てくる前にストップしてくれるのですよ。
人生なんぞ後悔の連続ですよ。
「あの時こうしていれば今頃・・・・・・」
それの繰り返しです。
神様じゃありませんので、こりゃもう仕方がない。
失敗を踏まえて「次は同じヘマはしない」と言い聞かせる。
そうして生きるしかないんです。
「自分はもうダメだあ~」と諦めるよりね、
「次はうまくやるんだ」って気持ち。
それが前向きに生きていくって意味なんです。
あきらめたら、ふにゃふにゃの軟体動物。そして寄生生物になっていく。
人間ならば、しっかりとした硬い背骨をピンとのばして生きたいもの。
蕎麦の三立
「蕎麦の三たて」って言葉があります。
「挽きたて」、「打ちたて」、「茹でたて」
こうでなきゃ手打ちの蕎麦を食べる意味は無い。
これはね、「鮮度」を意味し「新鮮でなきゃ香りが楽しめない」ってこと。初鰹を愛する江戸っ子の気質も背景にありましょう。
だが隠れた意味もあると教わりました。
(ウチの親方の創造かも知れませんがね)
蕎麦は「細く長い」
なので縁起をかついで晦日に食べます。
「だから蕎麦の三たてってのは輪廻転生も意味してるんでぃ」
そう言っておりました。
親方は耄碌した爺さんでしたんで何が言いたいか不明(笑)
おいらが現代語に翻訳&要約しますと、
「人生は長いが、何回でも”再生”できる」
「いつだって新鮮でいられる」
つまり、どんな時でも鮮度抜群でいろってことです。
一度や二度失敗しても、そんなモンくらいで折れる必要はない。
何があっても「・・たて」の気持ちを忘れるな。
「それが江戸っ子ってもんよ」
とか言っておりました(^^
短気は損気
おいらはそれで随分と損もしたし、後悔したこともあります。
気の短さを矯正するのは骨が折れるもんです。
「少しゆるくならなきゃ駄目だ」
気持ちを引き締めて、「自分に厳しく他人には柔らかく」出来るように。そう考えるたびに、親方の言葉が支えてくれました。
ダメだったらもう一度「挽いて、打って、茹でれば」いい。
くよくよ後悔している暇がありゃ生まれ変わればいい。
【何があっても「・・たて」の気持ちを忘れるな】
いいオヤジでした。
次の命日には蕎麦でも差し入れしましょうかね。
どうせ
「そんなモンより酒もってきやがれ唐変木!」
でしょうが(笑)
もったいないんで自分で食うことにしますか
心があったかくなる気がしました。
粋な親方ですねえ。
そしてそれを伝えていって下さる魚山人親方も、粋ですねえ。
今夜はよく眠れそうです。
Posted by さとう at 2012年06月15日 00:25
まったく、まったく、本当にそのとおりですね。
口は災いの元。
魚山人さんのいうとおり、私ももう一人の自分と共に、気をつけたいと思います。
そうそう、悪口の元は悪感情、悪感情の元は自分の勝手な思い込みなんだそうです。
自分の無意識レベルの“こうあるべきだ”、“そのはずだ”という思い込みが、現実とギャップを生むとき、不平・不満や怒りとなって、発露するそうです。
周りからすれば、いい迷惑ですよね。
逆に、悪感情を自分の中で見つけられれば、無意識での思い込みを解除するチャンスとも。
ひとつずつ解除することで、自分の低き低き意識も、より高次へと、飛翔してゆくのでしょう。
きょうは、親方様の素敵なお話、ありがとうございました。
お写真のそば、とってもおいしそうです。
いつも楽しく、読ませていただいております。
Posted by 大石亭 at 2012年06月15日 12:36
さとう様
大石亭様
コメント、どうもありがとう御座います。
「人生における最大の敵は、自分自身」ってことになりましょうかね、結局。
難しい話ではありますが、敵とはやはり戦うしかないのでしょう。
戦闘を繰り返して、自分の陣地を増やすしかありません。
その「陣地」がすなわち「己の立ち位置」になるのだと思います。
>思い込み
それが一番困った問題です。誰でもそれを持っていますからね。
そうした個人の集まりが国家ですが、国そのものが「思い込み」に陥っている場合も。
「本人は勝利を続けているつもり」って奴です。
経済拡大の路線を捨てられず、逆にリセッションを深める増税やバラマキ財政を今後も続けていくつもりの連中が国を引っ張っている馬鹿な現状。
消費が冷え込めば増税効果などゼロ。いやマイナスです。
物を売るために企業は値を下げ続けるしかなく、従業員をカットするしかない。失業者は増え続け、ますます消費は冷え込む。
40年かけてコツコツ貯め続けた「資産」に手をつけるしかありません。だが郵貯をはじめとした個人資産は、とっくの昔に政府の担保になっている。
貿易収支も赤字に転落、「命の綱」である「所得収支」も危険でしょうね。1000兆債務の金利も払えなくなるのは目に見えています。
そうなればギリシャの破綻などまだ可愛くみえるほどの惨状になるでしょう。
IMFの介入はまず避けられない。
当然ながら「敗戦国」には「占領軍」が進駐してくるからです。
消費税は30%以上確実。
あらゆる社会保障は廃止。
マイナンバーが導入され、すべての預貯金にも課税。
つまりは「人頭税」ですな。
中間層は貧困層に落ちて失業者で街は溢れる。
労働者の賃金はベトナム以下のレベルになるでしょうが、それでも仕事が無い。
そうなってやっと海外からの投資が活性化します。
中国や韓国などの企業の「日本工場」ができるわけです。
そこから日本の人口は増加に転じるでしょう。海外移民の増加分で。
まぁ、そのような方向へ向かっておるのでしょうね、この国は。
今の20代の若者には、なぐさめる言葉さえみつかりません。
それでも親方達の墓を守るために、この国にいなきゃいけない。
しかしウチの親方はこう言うでしょうが、
「余計なお世話だよ、こんな国なんざもういい。さっさと出ていきやがれバカヤロウ」
(笑)
Posted by 魚山人 at 2012年06月15日 17:27
今、魚山人さんの文章を読みながら、まるで今日の仕事中の私自身だった様で、恥ずかしい思いを抱きながら読ませてもらいました。
Posted by sin at 2012年06月15日 19:59
こんばんは、sinさん。
誰だってそんな日がありますよ(^_^
毎日でも「蕎麦の三たて」
翌日に「生まれ変われば」、それでいいんじゃないでしょうか。
蕎麦のように「長い」人生ですが、
ノビたメンみたいにならねぇように、
いつでも【たて(FRESH)】でいましょうや ^^
Posted by 魚山人 at 2012年06月15日 21:04
何年も前に言ってしまった事を
フとした時に思い出して
憂鬱になる事がよくあります
まさに幼稚で子供じみた十代の頃
自分の言葉は
吐いた瞬間に消えると思い込んでたんですかね?
いやいや
な~んも考えてなかっただけです
言うなら、やるなら、やらないなら
それと一生付き合う覚悟はしないとね
Posted by エンゾ at 2012年06月15日 23:47
なんつ-優しいッツーか
愛あるッツーか…爺。
お疲れ様です。
実ゎこの記事の言いたいことこそが 俺が俺に課した
課題でね。 自画自賛になっかもしんネェが「諦めない」ことに関しちゃかなりの自信ありだ。が
それを子鯔達や後輩(今ゎいないが将来ゎ弟子が欲しいんで諦めない俺(笑))
に伝えたいんだが なかなか言葉にするのが難しい。
俺だけが言って満足なら
いくらでも言葉ゎ見つかるが いかんせん理屈っぽく
聞いてる方も「メンドクサッ!こいつ」←と取られても仕方ネェ言い回ししか出来なかったが「蕎麦の三たて」←貰うよ。この翻訳作品。爺。
子鯔達ゎ蕎麦の善し悪しがわかるように育んできたつもり。娘がまだ微妙だが1号2号ゎ理解してる。香り こし 喉越し。ムカツクのが2号。
もう6年生になっちまったよ!爺ハヤッ(笑)
こいつゎ必ず上天せいろ。
を。先に蕎麦手繰って 俺らが蕎麦湯をススッてる時に ひたすら天麩羅をヤッツケる。んで最後に満面の笑みでもって海老の尻尾を…(笑)
2号いわく〈天麩羅を先に食べたら蕎麦がマズイじゃん!〉やれやれ(笑)
「蕎麦の三たて」流
「自己を律する」やり方ゎ継続しなけりゃいけません。若い方々が もしもこの記事と このコメントに目を通して下さったなら心の中の見易い所に置いといて下さい。必ずや将来
「信用」という何事にも替えがたき財産となることをボンクラ鯔次郎が約束しますよ。
爺。
俺な もしかしたら 常に挽きたて 打ちたて 茹でたてでいるために爺blogを悪用してんのかもしんネェ。
でもな
学習とまでゎいかネェが
得たものゎ数え切れネェよ。
ありがと。
さ-てリフレッシュ完了!(笑)
Posted by 鯔次郎 at 2012年06月16日 00:50
いつも拝見させて頂いてる若僧です。
25歳になり代々続く飲食店に入り見習いをやっています。今更サラリーマンになれば…など不満を毎日のように思ってしまいます。田舎の日本料理店ゆえ、転職などもう遅い、周りはみな楽しそうに人生を送っていると自分の不甲斐なさを痛感します。自分自身が悪い事は百も承知ですがやはり毎日悔しいです。ブログを読んで不平不満を口に出さずもう少し明るい未来を期待しがんばってみたいです。
Posted by ヒヨコ at 2012年06月16日 12:25
こんにちは、いつもながら魚山人様の洞察力には恐れ入ります。何度となく人の行動学的な疑問をこのブログ記事、読者様方のコメントからヒントをいただきありがたく思います。
ホームページの料理解説の素晴らしさ。ブログでの発信内容ともに書籍になる価値大有り!! 座右にしたくてコレはと気づいた記事はiPadのスクリーンショットで保存してます。 自己紹介もなしにコメントしてごめんなさい。魚山人様に感謝のつもりで書き込みました。
Posted by Floridian at 2012年06月17日 04:06
魚山人様
他人の悪口まで行かなくとも、この時期は最初に口をついて出てくるものは、不平不満が多いですね。
「いやな天気やね」
「じめーっとして最悪やわ」
まぁ会話の冒頭、そこから話が始まっていくわけです。
でもそうじゃない場所もあるわけで。
日本料理店。
梅雨の真っ只中、傘を差しながらお店に向かえば、入り口に番傘が立掛けられています。
部屋に通され、新緑の葉や苔の濡れた庭を見て、薄暗い空間に水の流れる音。
生花。掛軸。器。
鮎、鱧、じゅん菜、茗荷・・・「あー幸せ。」
調理場は逆に不快指数100%、仲居さんは汗の吹き出るのをおさえおさえ・・
先人の知恵に多くを委ねているとは言え、今そこにいる方々の、
自分を律して、客をもてなす。
素晴らしいですね。誇れる日本文化。
板前の皆様、ありがとうございます。
Posted by 野菜人 at 2012年06月17日 08:37
エンゾさん。
日本から消えてしまったもの、それは「覚悟」でしょうな。
レトロであろうとソイツを取り戻したいもんです。
鯔さん。
小鯔たちのように、おいらも婆様から鮨の味を仕込まれたもんだ。
その味も古代遺跡みたいになり幻の彼方。
今じゃ皆さん「コンビニ舌」
蕎麦の三たても同じ運命。
ところがどっこい、東京のアチコチにまだまだ「鮨」も「蕎麦」も存在する。
日本ってな不思議な国だよ。
ヒヨコさん。
気持ちはよく分かりますよ。
でも勘違いをなさってますな。
>周りはみな楽しそうに人生を送っている
とんでもない勘違いです。
もう少し正確に、社会状況を把握なさる事です。
皆ね、「吐き気がするような人生」を送ってるんですよ。
楽しそうに見えるのは表面だけです。
そもそも、周囲がどうだろうと関係はないんですよ。
他がどうあれ、自分は足元をしっかり見据えて着実に進む。
そこからです。
Floridianさん。
くだらねぇ事ばかり書いておりますのに、まことに恐縮です。
こちらこそ感謝ですよ。
野菜人さん。
まぁ、板前の実態がそこまで風流とは言えませんけどね(^_^;)
世知辛い浮世は何処も等しく、人間を矮小にしてしまうものです。
ですが、
「風鈴の音色」が耳に届くあいだは、まだ日本は大丈夫じゃないかな。
そう思っておりますよ。
Posted by 魚山人 at 2012年06月18日 00:16