中高年になってから料理人へ転身
板前の岐路は三十路前後に訪れます。何故かと言いますと、この時期にだいたい修行から10年を経過した者が多くなるからで、真面目にやってきた板前なら普通はこの時点で一人前になっている。四季を10回以上も繰り返し見れば、目に焼きついているでしょうな和食の心も。ですからこの年齢に料理長になる者が多いのです。
バブル崩壊後からたびたび目にしますのは、中高年になってから料理人へ転身なさる方。脱サラとか、社命とかの事情が多いようです。おいらも何度か年上の方に料理のイロハを指導した経験がございます。
この傾向がさらに顕著になるやも知れません。日本の土木建設業界は厖大な人員を抱えておりますが、国家の予算だけをあてにしている悪習があり、ここに今までのように無駄な血税が投入されなくなりますと当然職にあぶれる人達が出てきます。
結論から言えば40~50になってからの料理修業は充分可能です。
集中力と根性のある人なら1年経ずに基本的なことはできる様になりますし、その後は本人次第です。なんら問題はありません。
問題は人間関係
問題が生じるのは仕事以外の事になります。
先に書きましたが板前達は基本的に若いのです。料理長は30代前半か20代後半が多く、当然部下達も殆どがそれ以下の年齢。そこに「中高年の板前見習い」が入ってくれば軋轢が生じることもあります。
もしあなたが自尊人やらプライドの高い人なら厳しい局面が訪れるかも知れません。以前の職場で若い者を使う立場だったなら余計にそうなりましょう。最初は環境が変わったのだからと謙虚な姿勢で臨むかも知れませんが、様々なことが起きてじきに耐えられなくなるという事になる。
人間関係は結局のところ「運」です。 どのような板前達とめぐり合うのかはまったく分からない。同業者のおいらから見ても不遜で腹のたつ板前が多いくらいですからね。まして職種が違えば理解できぬ板というのは本当に多いのです。
おいらの場合は仕事と切り離して人生の先輩として接する事でトラブルが起きる事もなく、年上の板前見習いをなんとか仕事の出来る板にする事ができましたが、「人生を積み重ねた意味」やら「人の尊厳」などまったく頓着しない板前も沢山いて、そういうのに当たれば屈辱は必須と思われます。
周囲を見回してみますと、そうした中高年板前志望者がうまくいったケースは小さな店が多いと感じます。要するに板前の数が少ない、あるいは親父一人で助板が一人といった感じの店。この事が「仕事そのものと人間関係は別」という事実を如実に物語っているでしょう。仕事を覚えるのはさして困難ではない、しかし人間関係は極めて困難だということです。
おいらのサイトはいつの間にか入門者用の内容になっていったのですが、もしかしたらこうした方々が記憶の底にあり、そういう方が見るかも知れないと心のどこかで意識していたのかも知れません。
畑違いで経験の無い分野の事は分からなくて当然の事です。それを恥じる必要などはありません。今から覚えればそれでいいんですよ。
また、若い板前は仕事しか見れない己を恥じるべきです。人は無駄に年齢を重ねてはいない。板前としては見習いでも「人間としての値打ち」は揺らぎが無いのですよ。人の価値を見抜けぬ自分はまだケツが青いと知るべきでしょう。
こんにちは 始めまして。毎回本当に楽しみに拝見させていただいております。 日本料理の世界に入ったのが遅かった私にとって今回の内容は非常に嬉しく感じ、迷いを取り去れてまたがんばれる活力となりました。ありがとうございます。
Posted by 三十路人 at 2009年08月19日 04:10
コメントをありがとうございます。
どんなことでも「気持ち」で乗り切れます。
頑張って下さい。
Posted by 魚山人 at 2009年08月19日 08:44
私は47歳去年までは ダイビングの仕事を20数年やってきました。 年齢その他の理由から
第二の人生は料理の勉強をしたいと思います。
趣味で台所には立っていましたが 主婦程度の
腕前 しかし 自慢はたぶん普通の人より
世界中の高級ではないけど おいしいものを
食べ歩いてきました。 新鮮さでいえば魚介類も とりたての いろんな種類のものを 食べてきました。 それだけです それだけしかないんです。今回ブログをみて ほっとしました。 ありがとうございました。
Posted by 沼田 健一 at 2011年04月14日 17:53
こんばんは、コメントありがとう御座います。
食べ歩いて身につけた「自分の舌」
そして同じ仕事を20数年続けた「根気と真面目さ」
それで十分だと思いますよ。
料理の仕事も大丈夫です。
頑張ってください。
Posted by 魚山人 at 2011年04月14日 22:26
私は今年で30歳になります。
現在の仕事に満足できず、好きな料理の道を極めようと転職して板前になりたいと考えておりました。
しかし、この年齢から一からの修行はどうなんだろうと不安で一杯でしたが、こちらの記事を拝見させて頂いて少し勇気ずけられました。勉強になる事もたくさんありますのでこれからもチェックさせて頂きたいと思います。
Posted by まむし at 2011年10月31日 01:21
30歳といえばまだ若手です。
20歳の野郎の技術は「気持ち」で追い抜けます。
本気ならまったく問題ありません。
頑張ってください。
Posted by 魚山人 at 2011年10月31日 01:59
素晴らしい、私は建築士で店沢山作りました、ただし
梅の花 というチェーン店です
ご意見は、確かに理解出来ます
飲食関連の設計は、やはり板前修業を
して 導線理解しないといけんでしょう
Posted by 勇之助 at 2012年07月30日 23:51
こんにちは。
例えばこのようなWebサイトにて「具体的な細かいこと」を書き始めると、「型にはまっていく」でしょう。時間が経つにつれて細分化し、その「小さな枠」から出られなくなって行くのです。
かと言って「ポータル化(総合サイト)」して行けば人間味が消えていく。
店の造作も同じことではないでしょうか。
どのあたりに線を引くのか。そういう事かも知れません。
どちらにしましても確実と思えること。
それは、「人間の気配を感じられぬ設計の店舗は消えていく」です。
Posted by 魚山人 at 2012年07月31日 08:35
40歳女性です。15年程前に寿司屋の板前見習いをしていましたが挫折してしまいました。
今は小6の子供を育てる母子家庭です。
朝は給食調理の仕事、昼からは割烹料理屋で調理補助をしています。
正直、今でも板前になりたいと思っています。
割烹料理屋で働いていますがパートで時間が短いしパートなりの仕事しか出来ません。
かといって子供が小さいので夜に働くことも出来ません。
子供が高校卒業したら46歳になってしまうし雇ってくれる所もないだろうなと昔辞めてしまったことを後悔する日々です。
頑張りたいけど諦めがちな自分がいます。
Posted by 土橋真弓 at 2013年04月13日 19:59
こんばんは、土橋さん。
この国は女性が生きづらい国です。
自分はフランスや北欧の事情を多少知っていますので、それを強く感じます。権力は弱者同士が争うように仕向け、弱者は弱者同士噛み合うか、自分より弱い者にうっぷんを向ける。そんな情けない「先進国」ですよ。
そんな社会で生き抜くのは容易ではありません。
でもね、諦めることはないと思いますよ。
46歳はまだ若い。
いつ「始めるか」は関係ありません。
強い気持ちを自分の中に湧かせられるか、それだけです。
何歳であっても、気持ちが萎えた時に道は消えます。
強い気持ちを維持するには「興味をなくさない」ことです。パート仕事であっても、本職を超えてやるという気持ちを秘めていればね、何かが変わりますよ。変わらないとしても、人生に意義を持てるでしょう。
世の中にはゴマンと人々が存在し、その誰もが様々な悩みを持って生きています。筆舌に尽くせないほど悲惨な人生を過ごしている人もいれば、人より抜きん出て突き進む者もいます。
元々大きな差があるから違いが出るのではありません。
両者を分けてしまうのは、「強い気持ち」なんですよ。
折れぬ気持ちを持って、頑張ってください。
Posted by 魚山人 at 2013年04月14日 00:05
はじめまして。
料理の世界に興味があるのですが、家庭料理を作る程度で、本格的な知識や経験はありません。
現在、32歳という年齢のため、これまで経験してきた職種で行くか、思いきって料理の世界に飛び込むか真剣に悩んでおります。
一番の不安は、年齢と、こちらでも紹介されているような仕事以前の上下関係などです。
自分がもっと若く精神的にタフならば、憶することなく飛び込んで行けるのでしょうが、
客観的に見て、私は精神的にタフとはいえません。
肉体的にも、精神的にも大変な修業に耐える覚悟と精神力があるのかと、自問自答をして悶々としております。
料理人を目指すなら、一流の技術を身につけたいと考えております。
今では、インターネットで求人検索や口コミの評価を簡単に知ることができますが、その情報量の多さゆえに、かえって、私のような高齢の初心者は、どのようなお店を選ぶのがよいのか決めかねています。
しっかりとした一流の技術を学びたいなら、いわゆる星つきの名店がよいのか、それとも小規模の個人店で、大将の近くで早くからいろんな仕事を経験できる環境が良いのかなど、ブログオーナー様の忌憚のないご意見を聞かせていただきたいと存じます。
Posted by 捲土重来 at 2013年04月26日 18:16
こんばんは捲土重来さん。
名の知れた店での修行が良いのは言うまでもありません。
しかし、そのような店は就職する者にとってはかなり厳しいものです。競争というものがありますので、入店前も入店後も精神的に重いものがあります。
日本には各地に調理師を養成する学校があり、本格的な教育を3年も受けてきた20歳にもならない若者が沢山おります。彼らに混じって働くのはかなりの覚悟が必要かも知れません。
精神的にタフではないそうですが、板前の仕事は朝から晩まで「いちいち人に手の動きを見られ続ける」仕事です。
口を出してくる愚か者も少なくはありません。
教えてやる気持ちなら構いませんが、自己の鬱憤を晴らすためにケチをつけてくる小心者も多い。だから愚か者なのですけどね。
そういうことに耐える、あるいは受け流すには「精神的な強さ」が必須であると考えます。
「タフ」と言うのはね、自分の気の持ちようでいかようにも鍛えることができます。弱かろうと、小さかろうと、頭を柔軟にしさえすればタフネスが身につくものです。視点の問題にすぎない。
あなたは三十代前半。
自分の経験からですが、上を目指す気持ちがあるのなら、35歳までに立ち位置を決定してください。人生で一番大切な年齢だからです。
言えるのはこの程度です。
どのような道に進むにも、自分の人生は必ず自分で決める必要があります。
成功を願っております。
頑張ってください。
Posted by 魚山人 at 2013年04月26日 22:05